ツーリスト

フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、2010。この監督は「善き人のためのソナタ」の監督であり、結構クソ長い映画を撮った。その監督が、アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップをキャスティングした超ビッグバジェット映画を103分で仕上げたのは敬服する。そしてその内容も素晴らしいもの。この映画はサスペンスフルでミステリアスな映画で、アクションシーンもあるのだが、これを見事に凡庸化する監督の手腕は映画をノスタルジーな世界へと案内してくれる。ヘプバーンとグラントのような映画。ワイルダーのような気の利いた演出は少ないが、気の利かない演出をしないあたり、相当信用が出来る。人間が信じられなくなるような映画ではなく、最後には結ばれると分かっているということの安心感。それがこの映画には充満している。パジャマで屋根を疾走するデップはドタバタコメディだし、見せ場のような舞踏会の踊りシーンなんて全く見せ場にする気無し。アンジーの美しさはノスタルジーの世界との接点で、舞台はベニスという極めて確信犯的な映画だと思う。アンジーの美しさたるや、アンジーを見るためだけにこの映画が存在していてもいいというくらいで、オールド映画の価値観とまたもや通じるところがある。ホントに期待していなかったから驚くような映画だった。