ル・アーヴルの靴みがき

アキ・カウリスマキ、2011。『過去のない男』で、男が電車の中で2秒位で巻きたばこを完成させるシーンがある。僕は彼に憧れて巻きたばこを吸うようになったんだけど、どうしても10秒以上かかってしまう。男の巻きたばこはもちろん映画のために練習したものではなく、マルック・ペルトラという俳優の過去にまつわる事柄。彼は巻きたばこをずっと吸っていて、それを映画で演じた。そういう人物の過去にまつわる事柄、手癖、それは歩き方や視線の癖、顔のシワの付き方にまで及ぶんだけど、カウリスマキはそういう事柄に凄く敏感な監督。この映画で憧れたのは主人公アンドレ・ウィルムが黄色いドレスを紙で包むシーン。包むことをなるべくアンドレ・ウィルム個人史に委ねている。リトル・ボブのライブシーンだって、当然表情の演出なんてしなくて、彼個史に委ねている。これは簡単すぎる例だけど、こういうところが映画の至るところにあるのが、カウリスマキ映画の凄みだと思う。あとはフランスに舞台を移してもティモ・サルミネンの撮影は相変わらずひたすら殺風景で良かったし、不格好で奇妙な演出も相変わらずの冴えを見せていたし、看板女優カティ・オウティネンも素晴らしかった。100点。