極北のナヌーク(極北の怪異)

ロバート・フラハティ、1922。ドキュメンタリーという名称が登場する以前の、ドキュメンタリーの父によるドキュメンタリー映画。しかし、この映画のスタイルはかなりモダンであり、その演出方法はテレビ番組などで現在でもよく見かけるものだ。それだけフラハティの演出には普遍性があるのか、もしくは、フラハティの影響のもと膨大なドキュメンタリーが製作され、いま見ると当たり前のように見えるのかもしれない。また、イヌイットという辺境の文化をとらえるといった側面は、テレビなどで辺境の地の暮らしを紹介するドキュメンタリーとしてさんざん見てきたものである。その演出スタイルと取り扱う題材は、ともに現在まで焼き直しされまくっている。この映画だけを見て、後世に与えた影響の全貌をうかがい知ることはできないが、現地住み込み型ドキュメンタリーという意味では、小川紳介に影響を与えたことも容易に想像できる。この映画は、字幕や編集などポストプロダクションによってかなり演出されており、映画の形式としては物語形式に近いものがある。強い男ナヌークとその家族の行動を追うのだが、アクションの因果関係はきっちり説明される。それが小気味よくカッティングされ、大きなエピソードのなかに小さなエピソードがあり、そうして作られたシーンがつながれてゆく。この映画は製作、監督、脚本、撮影、編集などがフラハティのクレジットになっている。冒頭で、大変な撮影だったことが語られるのだが、そんな現場を体験したのちのポストプロダクションは見事に冷静であり、そこにフラハティのドキュメンタリーの核心があるのかもしれない。95点。