楽隊のうさぎ

鈴木卓爾、2013。音楽を題材にした学生の映画はたくさんある。しかし、この映画ほど音楽的な音楽映画は見たことがない。超奥手な少年が吹奏楽部に入部し、成長してゆくさまを追った一年間の物語である。まず、少年が音楽室へと吸い寄せることになる、うさぎを使った演出が素晴らしい。音楽室は聖域のようになっている。音もれの構造上、扉が二重になっていることで聖域らしさは強調される。映画は早いうちに音楽室の外と内をわける。少年は音楽室へと向かい、ヤンチャな友人は音楽室に入ることができない。音楽室が友人から少年を守る。そうして構築された聖域では、色恋沙汰や権力闘争は存在しない。素朴な人柄と、音楽に対するひたむきな姿勢が変わることはない。それは顧問の宮崎将も同じである。この音楽に対する姿勢が、生徒の表情や日差しや柔軟に動くカメラを伴って、圧倒的な音楽的自由空間を生んでいる。そこで少年は、自己決定や相互理解について音楽を通じて学ぶことになる。この希少な時間と空間についても簡潔に語られる。三年生がいなくなり、部員の転校がほのめかされる。そして、なにより主人公の少年の成長を見て取るとき、希少な時間が見事に演出されていることを知るのである。吹奏楽部での振る舞いに成長はあらわれ、ヤンチャな友人への対応でそれは強化される。終盤、音楽室にはうさぎがひとりでいる。演奏会があり、次のシーンでは登校する少年と友人とのやり取りがある。もはや、少年にとって音楽室という聖域は必要不可欠なものではない。そして見る者は、成長した少年を見ているのではなく、成長する少年を見ているのだと気づかされるのである。100点。