ムーンライズ・キングダム

ウェス・アンダーソン、2012。冒頭から、世界を構築する手際のよさに驚かされるのだが、その世界に入ってゆくことができない。ウェス・アンダーソンの映画はいつ見ても蚊帳の外に追いやられてしまう。彼の映画に貫かれているのは、様式美にもとづく偏屈で端正なスタイルではなく、子どもに限らず、人間に限らず、生き物にも限らない、その構築した世界すべてに対するやさしく温かな眼差しだろう。この映画もそんな眼差しにあふれている。物語の均衡はすぐに破られる。フラッシュバックで手際よく説明がなされる。そして変わり者の男の子女の子の逃避行のような冒険がはじまる。不均衡の状態はとても美しい。特に入江のシーンはこの映画のハイライトである。海に飛び込み、ピアスを作り、絵を描き、ダンスし、キスをする。しかし、そこでのふたりだけの世界はあっけなく崩される。このあっけなさは映画全体で一貫している。音楽の軽さもそれを助長する。不均衡は後半になると、ふたりの逃避行に加担する仲間や阻止する大人たちを巻き込んでゆく。ふたりだけのアンタッチャブルな冒険などあり得ないといわんばかりの勢いである。そして、ふたりの冒険は良心的な大人たちによってタッチャブルになる。組織や家族や大人との対立の構図がいい意味でなし崩しになるのだ。ふたりが子どもであるがゆえに大人の介在があり、その結果として均衡が訪れる。しかし、その均衡には大人の物語と同じように明確な変化が起こっている。寛容さや人間愛に満ちた素晴らしい映画である。しかし、蚊帳の外からではよくわからない。アニメを見るような感性が必要なのかもしれない。90点。