ドラッグ・ウォー 毒戦

ジョニー・トー、2012。ストイシズムに貫かれた冷酷な娯楽映画である。台詞の少なさがアクションを際立たせている。その象徴が、ろうあの兄弟である。この映画には銃撃戦が二度ある。そのどちらにも登場するのは、ろうあの兄弟だけである。耳が聞こえない状況を利用した演出は見事だ。トイレにいたら銃弾が飛んでくる。二丁拳銃でトイレの壁を乱射する。ここでの男は耳が聞こえないどころか目も見えない。台詞の制限にはじまるストイシズムが絶大な効力を発揮する瞬間である。男がトイレから出てきて、ふたりが交錯するときのカッコよさにはほれぼれする。耳が聞こえないという欠落ゆえに磨かれた自己防衛力が娯楽活劇として炸裂するのだ。ろうあの兄弟が何度か見せる香港ノワール的な拳銃の構え方も見ものである。そんな素晴らしい助演を得ながら、映画はとにかく早い展開を見せる。それが捜査に協力する悪者によって引き伸ばされる。この早い展開と引き伸ばしにより映画全体の緊張感は保たれる。映画の細部は緊張感にあふれている。警部はふたりの人物を演じる。ひとりは謎の人物であり、もうひとりはいま見た人物を演じるのだ。そこでは意図した反復と意図しない反復が起こる。この映画は、演じるという行為を巧みに操作する遊びごころを持ちながら、シーンをとっとと終わらせるクールさを併せ持っている。小道具の危ない使い方や、携帯やポケベル、隠しカメラが緊張感を高めている。ラストの銃撃戦は、その場所や奥行きを生かした空間が、カメラによって絶妙に切り取られる。そして、冷酷な死が横たわり、唯一の生存者さえも冷酷に死にゆくのである。95点。