アンダーカヴァー

ジェームズ・グレイ、2007。突出した脚本とは思えないようなクライムサスペンスを、ジェームズ・グレイは恐るべき映画的感性で描いている。マッチョな要素の排除がとても興味深い。男くさい犯罪映画であるにもかかわらず、マッチョな作劇がほとんど見られない。細やかな演出によりマッチョな要素は排除されている。ジャンルの似通ったハリウッド映画と比較すれば、その差異は一目瞭然だろう。制限される視界の演出は、それ自体効果的なのだが、マッチョな要素の排除にも一役買っている。カーアクションは豪雨で視界不良となり、復讐劇は覆い茂る葦で視界不良となる。この映画は、見ることに対しての意識づけが徹底している。とても濃厚な視線劇が展開され、覆面により視界はふさがれる。警官の兄マーク・ウォルバーグと、ナイトクラブを任されている弟ホアキン・フェニックスの関係性がこの映画の最大の見どころだろう。ふたりは冒頭で、対照的な立場にいながら類似性を見せる。ふたりとも高慢であり出世欲が強く、また家族愛が強い。ゆえに、父親の殉職は兄弟に重大な影響を及ぼす。兄は病院で遺体を確認し、弟は殉職の瞬間を目撃する。この時点で兄弟のベクトルの変化は暗示されている。その後、大小様々な関係性の変化が起こる。弟は警官になり、兄は弟への憧れを告白する。その変化が決定的となるのは最後の銃撃シーンだ。それは、父なき子ゆえの無能か、父なき子ゆえの有能かという、極めて対照的なふたりの姿である。そのようにして、クライムサスペンスのなかで兄弟の関係性を劇的に変化させながら、兄弟愛や家族愛が複雑でありながら明快に語られている。100点。