この世界の片隅に

片渕須直、2016。この映画は本当に世界の片隅について描いている。主人公の目線で物語が語られる。まず、主人公自身があり、夫婦があり、家族がある。それ以上のことについては、なにか絵空事のように扱われる。だからこそ、主人公の敗戦へのダイレクトな反応をはじめ、義理の姉の子を死なせてしまうことは、見る者の胸に刺さる。敗戦への反応が、もし個人の枠で収まらずに、家族あるいは近隣住民にまで及んだら、見ていられないものになる。そして主人公の目線で、とりわけ重要なのは絵である。絵の演出は映画全体を通して効果的だ。空爆が頻繁になるまで主人公とそのまわりは、かなりのんびりしている。だからこそ最初の衝撃をリアルに描き、そのあとは絵を用いて描いたりすることができる。戦争で強くなる女性を描くのを避けているように見えるのも素敵だ。主人公は片手を失い終戦間際まで実家に帰るかどうかで悩む。そして広島の原爆と遊郭とをその鈍感さでもってつなげてしまう。このように主人公の考えや思いは映画にたくさん溢れている。当然ひとりで生きていけないことも描かれる。夫がいて夫の家族がいる。家を上から撮ったラストショットが印象的だ。これは戦後の家族の再生物語ではない。いうなれば、そして家族はつづく、という以上のことは提示されない。主人公の視線ゆえに、敗戦からの変化は主人公に託され、まだ見ぬ家族の厄介事も主人公に託されるのである。託された主人公は抗い流され、そして家族はつづくのだ。主人公の視点だからこそ、ラストの橋シーンでは、マクロからミクロへの鮮やかな展開が見られる。95点。