マルタの鷹

ジョン・ヒューストン、1941。脚本家あがりのジョン・ヒューストン初監督作品。それでいて冒頭の探偵事務所のシーンから、古典的ハリウッドの「正しい」ショットとカットが見られる。ハイキーでシャープなショットがカットバックされ、視線の交錯劇の様相を呈しながら物語ははじまる。フィルムノワールという意味でも、探偵ハンフリー・ボガートとファム・ファタールのメアリー・アスターがいる。つまりこれは古典的ハリウッドの典型的フィルムノワールということになる。だからといって、この映画がその時代やジャンルを代表するものかといえば疑問は残る。探偵モノの定番である制限された語りがミステリーを生み出す。これはかなり気持ちがいい。なぜなら制限される対象がハンフリー・ボガートだからだ。例えば同様に制限された語りの映画である『タクシー・ドライバー』では、見る者はかなり危ういトラヴィスに制限され、気味が悪くて逃げ出したくなる。そういう点ではボギーは無敵なんだというヒーローモノとして娯楽性がこの映画の語りにはある。そしてその娯楽性こそが、この映画の突出した魅力となっている。脚本自体にすごみがないし、演出や撮影も際立つものは感じられない。ドタバタハードボイルドのような映画である。結局、やんちゃ坊主たちと冷静なボギー先生というような構図になっているし、ファム・ファタールは機能不全だ。しかし、危なっかしいヒーローのボギー、天下無敵の脇役秘書、すぐに死ぬ同僚、バカげた謎とその顛末などは魅力的である。映画としてはあらが目立つが、娯楽としては楽しめた。90点。