何も変えてはならない

ペドロ・コスタ、2009。ジャンヌ・バリバールの音楽ドキュメンタリー映画。モノクロの固定カメラのなかで、スタジオやライブの演奏が流れる。光のつかみ方がペドロ・コスタらしい。音を聴けばわかるのだが、緻密にミックスされている。しかしそれは隠される。あたかもカラーから色がかくされるように、緻密なミックスも隠されるのだ。そうして表層に残るのは、光と影とジャンヌ・バリバールとその声である。演奏は隠すことができても空気の振動を必要とする声だけは隠れない。同様に光と闇は作用するため隠れることはない。声と闇の美しさはこの映画を物語っている。この映画は光と闇とジャンヌ・バリバールから音楽を見事に引き出している。タイトルにある「何も変えてはならない」とはゴダールがブレッソンから引用した言葉だ。この映画はジャンヌ・バリバールの音楽を何も変えることはない。フィックスのカメラで見つめるだけだ。ただ、この映画は劇場でこそ威力を発揮するものだろう。まず音楽がちゃんと作られているから爆音で聴くべきである。さらにモノクロのショットは、少なくとも見ているあいだは世界がそのショットのみで構成されていてほしい。テレビの闇とスクリーンの闇はまるで別物である。物語性が希薄な分、家で集中して見るのは難しいし、できれば字幕なしで見たくなる。そう考えると気軽に見られそうで、実はかなり厄介な映画である。わかりやすいのだが、かなり芸術映画的な佇まいがあり、実際ガチンコ勝負するだけの強度をこの映画は持っている。個人的には音楽をBGMとして垂れ流すように、この映画も垂れ流して何度も見るのがいい。95点。