トム・アット・ザ・ファーム

グザヴィエ・ドラン、2013。ドランはじめての原作モノ。これまでの作品に見られた定番のショットや色づかいは抑えられており、物語を語ろうという意欲が伺える。この物語が非常に厄介なもので、ゲイを隠すことからとんでもない方向へと物語は展開する。死んだ男の恋人ドランは友人として登場する。そして架空の家族が設定される。母はドランに息子を見る。同様に兄もドランに弟を見て家族を見る。厄介な家族ならそれで話は終わるのだが、ドランが兄に弟を見てしまう。そして都会人ドランの農場生活がはじまる。ドランは良かれと思い死んだ男の恋人役の女を呼ぶ。ここからの話が見事なのだが、女は恋人を演じるが煙たがれる。ドランに説教して一緒に街へ出ようと言う。そのときドランの衝撃発言がある。見事に兄の発言が反復され無限ループ地獄へと陥っていることが判明する。女は泥酔してセックスしてとっととバスで帰る。同時にドランは昔の兄の話を人から聞かされる。女の投入によって、わずかな時間で架空の家族は崩壊へと導かれる。ドランは自分に気がついて逃走する。この映画はDVや家族の喪失、理想と現実や自覚と無自覚など近すぎると見えなくなるものをテーマにしている。母は理想と現実、自覚と無自覚のあいだで宙ぶらり状態であり、兄はDVという名の保身と愛の暴力によって自覚的に家族を喪失から守ろうとして無自覚的に崩壊させている。ドランはすべてにおいて近視眼的になるのだが、自ら投じた近視眼にならない対照である女性によって物語から解放される。物語は張り詰めた緊張感が緩むことなく持続する。そのスリルの演出は見事である。95点。