間諜最後の日

アルフレッド・ヒッチコック、1936。ヒッチコックも語っているが、主人公がいやいや仕事しているっていうのはやはり乗り切れないものがある。そして昨今のスパイものでは女の非情な強さが目立つなか、マデリーン・キャロルの職務放棄するわ人情に流されるわというのはかなり斬新なキャラクターだろう。ひとり安定感を見せつけたのはピーター・ローレで、コメディリリーフ以上の役割を演じている。物語がイマイチパッとしない分だけ、ヒッチコックの演出が目立つ形になっている。こういう映画は監督の腕の見せ所だ。凡百の映画監督はこのイマイチな脚本をイマイチ以下にしか撮ることができない。しかし、ヒッチコックはサービス全開に演出しまくる。スイスへの華麗なシーンチェンジ、カジノのボタン、アルプスでの殺し、執拗な犬のカットバック、ノイズによりサイレント化したチョコレート工場、そして最後の列車と飛行機のアクション。どれもスリルに満ちあふれていて素晴らしい。ロバート・ヤングは最初から怪しい人物として登場して、案の定バレて、ピーター・ローレを殺して終わる。そのあたりの脚本も本当に弱々しい。人物の心情のブレではなく脚本のブレがやたらと気になる。そういう意味でまったくブレないピーター・ローレの存在により映画はなんとか安定を保っている。とてつもない列車脱線爆破みたいなシーンがあって、ラストのアンハッピーエンドとハッピーエンドがあるのだが、アンハッピーエンドはもう少し描けたような気がする。90点。