夏物語

エリック・ロメール、1996。1人の男と3人の女をめぐるバカンス映画。この映画では、主人公ガスパールのキャラクターが明確に語られることはない。ガスパールのまわりが描かれ、そのなかでガスパールが形作られる。3人の女はそれぞれになにかを象徴してはいるものの、タイプの違う3人という枠からはみ出すことはない。映画のほどんどはガスパールと女が移動しながら会話するシーンのみで構成される。多くのロメール作品がそうであるように、台詞は身体化され自然に発せられる。ショットは基本的に長回しである。それらが見事な融合を見せるとき、映画からなにかすさまじいものが発せられるわけではない。実際には、役者の台詞や動き、カメラの動きや背景の自然描写など、すべてが驚異的だ。しかし、この映画からその驚異を感じることはない。カメラの存在を忘れ、役者の演技も忘れ、ただ映画のなかに入り込んでしまう。作家主義的なアプローチが、ソリッドでありながらソフトに、そしてシンプルに極められ、あまりのすごさにすごさを忘れてしまうのだ。ものすごく作家性のある映画だし、構造的にもそれはあらわれているのだが、その演出の自然な装いに誘われるがままに映画に没入してしまい、気がつけば映画は終わっている。だからロメールの映画は何度見ても飽きないし、何度見ても新たな発見がある。ダメ青年ガスパールに対する眼差しはすごくやさしい。映画の眼差しはマルゴという女の眼差しに近いものがある。そのマルゴの描かれ方が絶妙で、それにより映画も絶妙なものになっている。100点。