第3逃亡者

アルフレッド・ヒッチコック、1937。犯人と間違えられた男が、女と逃亡しながら真犯人を突き止めるという、ヒッチコックらしいサスペンス形式であり、見る者の引きつけるシーンがいくつもある。ただ映画全体としては主演のふたりをうまく描けていない気がする。この映画は、冒頭の衝撃的なオープニングショットと、ラストシーンの俯瞰から超クローズアップへのワンショットの衝撃に尽きるといってもいい。あとは唐突に挿入されるかもめのショットの衝撃。かもめのショットのような唐突さがもう少しあれば素晴らしく奇妙な映画になっていたと思う。映画はひょうひょうとした殺人容疑の男と、やや世間知らずな警察署長の娘の逃走劇だ。そこに警察の緩慢さが相まって、サスペンスというよりは牧歌的なドタバタ喜劇のようだった。中心となる女のキャラクターがイマイチよくわからなかった。誕生日会のかくれんぼは印象に残っているが、そこまでのもたつきが気になった。女の心理を執拗に揺さぶる食卓のシーンや、廃屋のシーンでの地面の落下は簡潔に描写されており見ていてハラハラした。しかし、結局はラストシーンの強烈なカットバックに尽きる。女と浮浪者のショットから、衝撃の長回し移動ショットがあり、そしてふたたび女と浮浪者にカットされる。この女と浮浪者のふたつのショットのあいだに、見る者は登場人物より多くの情報、そして決定的な情報を得ることになる。この、語りの上でも最も重要なショットに、とてつもないショットを持ってくるあたりのサービス精神が素晴らしい。ヒッチコック流過剰サービスの炸裂を目撃すると、映画全体への不満が吹っ飛んでいってしまう。90点。