賭博師ボブ

ジャン=ピエール・メルヴィル、1955。一風変わったフィルムノワール。アンリ・ドカエによるモンマルトルのロケーション撮影は朝昼夜問わず素晴らしいの一言。この街の物語だといわんばかりの説得力がある。そしてこの映画はセットも素晴らしい。特に壁や窓がいい。格子を基調としたポップなデザインが魅力的だ。この映画は音楽も相当あそんでいる。素材を集めて即興でエディットしたかのような音楽の挿入には軽妙さすら感じる。素敵な街とポップなセットと軽妙な音楽が、フィルムノワールのダークなムードを消し去っている。ファムファタール的な悪女も出てこない。役割の一部をイザベル・コーレイが担うのだが、終盤のボブの家での優雅な彼女の姿は天使のようであり、フィルムノワールで描かれる女性像とはかけ離れている。テキパキと進む物語展開はメルヴィルらしい。物語の重要な転換点も強調されることなく端的に描写されてゆく。バーに顔を出し、マダムに何かを聞き、バーから去る。こういうシーンはフィルムノワールの定番なのだが、この映画でも再三見られる。街とバーを隔てるのはドアひとつであり、人と人がちょっとした会話をする。そういった夜の光景はパリならではのものだろう。物語はカジノの金庫強奪をハイライトに持ってきているのだが、実際そうはならない。金庫を開けるテストの入念さが、音を際立たせる演出になっていることを見ればそれは明らかである。モンマルトルにいないボブの描写が素晴らしい。そしてフィルムノワールというジャンル、もしくは物語のハイライトをもてあそぶかのように賭博師と化すボブもまた素晴らしい。95点。