カリガリ博士

ロベルト・ヴィーネ、1919。ドイツ表現主義を代表する映画。ドイツ表現主義というのは芸術運動であり、映画でいえば内面世界を外面に過剰にアウトプットするような手法を用いるものだ。この映画では美術での内面描写が目立つ。その典型例は男が精神病院で立ちすくむ場面にあらわれている。地面は男の立ち位置を中心として広がるように色が塗られている。これはまさしく男の投影であり表現主義的描写となっている。この映画はそういったことが連発されるような芸術的な映画とは言いがたい。この映画のユニークさはセットの不自然な造形にある。それは表現主義的にいろいろな意味があるのかもしれないのだが、この時代にここまでデフォルメされた世界観を提示した映画があったことに驚かされる。それも実験映画ではなくまっとうな物語映画としてそれをやっているのだ。ただ、尺の短さの割にはダラけた感じがした。脚本もしくは物語全体の演出には疑問が残る。あとは演出技法に凝りすぎているから、撮影技法には物足りなさを感じた。この『カリガリ博士』は、タイトルと美術のインパクトがずば抜けているのだが、他は及第点といったところだろう。でもこの映画のすごいところは、映画全体に渡って不自然セットがあるものだから、その世界観はまるで洗脳されたかのように頭にこびりつくのだ。何はなくともこの映画は美術の勝利である。美術がここまでねじれている映画を見たことがない。映画のゆがんだ世界が、後遺症として頭に残るような奇妙な映画だ。90点。