群衆

キング・ヴィダー、1928。人生とはなにか。人間の尊厳とは何か。この映画はその答えの一例を明確に示している。この映画は1900年のアメリカ独立記念日に生まれた男の物語だ。この時点で群衆にとっての独立記念日と、男の誕生というと個人的な事柄の対照がある。映画は全編を通じて群衆と個人を対照させながら展開される。群衆が最も象徴的に描かれるのがニューヨークだ。その街並みから男のオフィスにいたるまでのショットの鮮やかさは目を見張るものがある。都市デザインや近代造形がシンメトリーを多用しながら美しく描かれている。そして男のオフィスだ。強烈な視覚効果と暗示的な意味合いを兼ね備えた驚くべき美術に圧倒される。男が女と出会い結婚するまでの迅速さ。そしてナイアガラの滝という強烈なセッティング。壊れゆく家具と家庭がアンサンブルを奏でる演出。とにかく物や出来事で状況を説明するのがうまいのだ。夫婦の物語がひとつの家具から群衆にいたるまで様々な要素によって語られている。そして本筋である夫婦の物語の圧倒的な素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。この物語を圧倒的なものにした要素はいくつもある。冒頭から語られる父と子の関係は強烈だし、妻エレノア・ボードマンのスマートな顔つきは、庶民的な泥臭さや被害者女性的な要素を排除している。そして群衆と個人の対照が生み出す社会的なメッセージの存在。しかしこの映画は夫婦の関係性や距離感が見事に描かれているのがとにかくすごい。夫の妻への愛情とダメ男っぷりの絶妙さ。それを受ける妻の絶妙さ。映画のフォルムとしての美しさと人間の内面の美しさがここまで際立っている映画も珍しい。100点。