ヴァンダの部屋

ペドロ・コスタ、2000。過酷な状況に置かれる人々を美しく描写という行為は、絵画の世界ではよくあることのような気がする。そういう意味でこの映画は絵画のような映画だといえる。ドキュメンタリーに分類されるであろう映画なのだが、映画ジャンルは意味をなさない。意味をなすのは絵画や写真との類似や差異である。そして映画を映画たらしめているものが、この映画の軸となっている。この映画は自然光を見事に取り入れながら人工照明も巧みに使っている。そして自然光と人工光を区別していない。同様のことは人物への演出にも見て取れる。演出される人物がいるのだが、多くは演出されていない人物である。ここでも演技と非演技と区別することはない。撮影はすべて固定カメラだ。これは絵画と類似している。しかし撮影は変化を見せる。前半は時間軸を分断するショットで構成されるのだが、中盤くらいから時間軸はそのままにショットを切り替えしたりする。つまり時間というものが意識的に強調されるのだ。時間は通常の絵画には存在しない概念だ。時間によってスラム街の暗い闇は描写される。この闇はスラムをあらわす重要なモチーフになっている。だからこの映画は劇場で闇に包まれながら見るべきだろう。時間という概念が生み出すアクションも絵画との差異の象徴だ。ショットのなかに複数のアクションが見事に配置されている。その動線の美しさはスラム街の造形あってのものだ。このようにして映画は映画的にヴァンダを中心とするスラム街を見つめている。劇場で見るには3時間という尺は短かいような気がした。95点。