イースタン・プロミス

デヴィッド・クローネンバーグ、2007。ナオミ・ワッツがこの映画の主演女優であることはまちがいない。この映画はナオミ・ワッツに象徴される母子の物語なのだ。しかし物語の大半を占めるロシアンマフィアでは母子はまったく描かれない。その代わりに父子が描かれ、同時に同性愛がほのめかされる。それはロシアらしく同性愛を断固否定するがゆえに強調される。実際の性描写はないのだが、同性愛を抜きには語れないようなシーンもある。同性愛という絆と秘密に満ちたモチーフは、そのままロシアンマフィアの世界にも当てはまる。母子と、父子と同性愛。それが見事に交錯するのが終盤の赤ん坊を捨てるシーンだ。ヴィゴ・モーテンセンとナオミ・ワッツとヴァンサン・カッセルは、魅力的な狭いセッティングであるのにもかかわらず、三つ巴の関係になることはない。あくまで関係はモーテンセンとカッセルの父子を含めた同性愛的な関係と、モーテンセンとワッツの秘めたる恋の関係でしかない。ここでカッセルとワッツはセパレートされ、この映画のナオミ・ワッツとロシアンマフィアの関係も同様にセパレートされるのだ。ヴィゴ・モーテンセンの存在が圧倒的だ。彼の緊張感がそのまま映画の緊張感となっている。ナオミ・ワッツの母子の物語はロシアンマフィアとの対照として描かれる。ロシアンマフィアでは、女は人身売買か売春かレイプの道具にすぎないのだ。ゆえにナオミ・ワッツとロシアンマフィアは映画的に絶妙にセパレートされながらも、それぞれの物語は淡い絡みを見せ、さらに淡い男女の恋が描かれる。濃厚な物語のなかで淡さが見事に演出されている。95点。