ミルク

ガス・ヴァン・サント、2008。ゲイを公表した上で、米国史上初めて公職に就いたハーヴェイ・ミルクの伝記映画。しかしミルクがゲイであるがゆえに受けた不当な扱いだとか、ミルクがどれだけカリスマ的な人物であっただとか、アクティビストとしてのバイタリティだとか、そういったものは描かれてはいるのだが、決して主題ではない。実際、映画のなかでミルクの人間性は賞賛されることもなければ、人間として成長してゆく姿が描かれるわけでもない。この映画には死のにおいが充満している。冒頭から死を予見してメッセージを録音するミルクがいて、当時のニュース映像で殺害が伝えられる。ミルクは劇中では公私混同しないのだが、死のモチーフとしては公私は混同される。公私で死のモチーフを類似させながら、物語は平行性をもって語られている。公私のどちらにおいてもミルクは器用ではないしカリスマ性もない。ショーン・ペンの目立たない演技や演出が良く、それがまわりのゲイたちを際立たせている。ハリス・サヴィデスの撮影はいつものように素晴らしい。特に市庁舎の撮影は見事だ。美しいトラッキングショットが随所に見られる。ラストの殺人に絡む三者の関係にゲイを見出すのは簡単だろう。当然そこには死があり、その死が直接見えないという意味において、平行するミルクの恋人の死と類似している。この映画は伝記という体裁がなければゲイの宿命的な死にまつわる絶望的な物語だ。死のテーマによって伝記映画のムードは調整され、いわゆる正義や悲劇のヒーロー映画にはなっていない。それでも社会的で娯楽性のある人情味あふれる映画になっている。95点。