ニノチカ

エルンスト・ルビッチ、1939。『ニノチカ』というタイトルはとても惹かれるものがある。しかしルビッチ作品としては『天使』と『街角』のあいだに挟まれており、見劣りするのも仕方ないと思わせるような出来の映画でもある。ただグレタ・ガルボ演じるニノチカが笑うまでがとてつもなくおもしろい。共産主義をカリカチュアした無表情トークの炸裂。台詞における言葉の選択のバカバカしさと破壊力はすさまじいものがあった。そして笑うニノチカがあって第二段階へと進むのだが、そこからはおもしろみに欠けた。そもそも脚本が弱すぎるのだが、ルビッチの演出もどこか凡庸さがあり、特筆すべきは扉の演出ぐらいだろう。パリでの扉の演出はいつも通りなのだが、これがロシアでは根底からひっくり返るのだ。そうなるとラストでふたたび扉の演出が戻らなければならない。反復する3人組の外出など戻す演出はあるのだが、決定的にニノチカと男だけの空間が扉によって演出されていないような気がする。それよりも共産主義と恋愛の折衷案が目立ってしまっている。映像演出に関しては、翌年の『街角』では演出技法と撮影技法の見事な融合が見られたし、サイレント期にはショットがカットされる小気味よさを演出する人物の動きと視線劇があった。そうした面から見るとこの映画には物足りなさを感じる。しかしソ連風刺コメディとしてはニノチカと3人組がおもしろく描かれている。この映画の素敵なところは、グレタ・ガルボというビッグネームに引けを取らないニノチカという役名と題名があるところだ。『ニノチカ』という文字面を見るだけで、ガルボの演技と笑顔を思い出すことができるのだ。95点。