裁かれるは善人のみ

アンドレイ・ズビャギンツェフ、2014。ロシア映画史、端的にはレンフィルム的なものを期待して見たのだが、演出技法も撮影技法もかなりモダンであり、ハリウッドとのちがいをあまり感じなくらいだった。しかし物語はロシアならではのものになっている。この映画は旧約聖書のヨブ記とそこに登場するリヴァイアサンが主なモチーフとなっている。ヨブ記は神がヨブの信仰を試すために苦難まみれにしてゆくような話だ。そのヨブ記に登場するのが海中の怪物リヴァイアサンで、この映画にも登場する。ホッブズでもおなじみのリヴァイアサンだが、ホッブズは国家のことをリヴァイアサン、怪物であるという。で、この映画はロシア正教とロシア国家という怪物によってメッタメタにされる男の、家族や家や土地の喪失が描かれている。この脚本の面白さは、最初にトピックとしてあらわれる立ち退き訴訟の案件が、かなりの振り幅をもって大胆に収束してゆくところだろう。情事が発火点となり、女の謎の死があり、男の謎の逮捕があり、息子の謎の引き取りがあるのだ。国家権力の仕組んだ罠だという描写はないのだが、明らかにほのめかしている。残念だったのは中盤までの停滞ムードだ。この映画は二時間半くらいある。中盤までの停滞ぶりを見ると長尺が必要だったとは思えない。決定的な瞬間を敢えて描かない演出も、それ自体は面白いのだが、映像を退屈にしていたともいえる。ロシア国民の受難を描いた映像作品はゴマンとある。だから家の跡地に協会が建とうが驚きはない。ただ家族の離散の流れと、そこにほのめかされる国家権力の描かれ方は素晴らしいものがあった。90点。