バルカン超特急

アルフレッド・ヒッチコック、1938。ヒッチコック英国時代の代表作。まず列車の立ち往生があり、ホテルで一夜を過ごす。このあいだに登場人物たちがイントロデュースされ、またサスペンスもじわりと起動することになる。ここでおもしろいのは主役が誰なのかさっぱりわからないところだろう。この映画は、脚本の大まかなプロットのおもしろさに比べてディテールはスカスカだ。そこを埋める形で登場する脇役たちの魅力がこの映画を飛躍的におもしろくしている。クリケット狂の英国人2人組は、いいところを全部持っていったといってもいいくらい最高の助演をしていた。英国人らしくペシミスティックな雰囲気を漂わせ、いいところで出番が回ってきて台詞を吐き捨てる。銃撃戦では意外な活躍を見せたり、列車の操縦までしてしまう。物語は、駅のホームでサスペンスが発生し、それとともに主役がはっきりしてくるのだが、相手役がわかるのはずいぶんあとだ。その相手役マイケル・レッドグレーヴは飄々とした佇まいが素晴らしく、証拠を偶然つかむまで信用しないところはよかった。ふたり組になってからは一気に活劇度が増し、謎をそれほど引っ張ることなく種明かしは結構あっさりしている。謎解きのミステリーがあり、それ以降のサスペンスがあるのだが、やはりサスペンスの見せ方にはヒッチコックならではのものがあった。しかしミステリーのなかに垣間見えるスリリングな描写にはショッキングな驚きがあった。ラストまでクリケット狂は素晴らしい助演をしている。特にチビな方の活躍っぷりといったらなかった。クリケット狂には大いなるシンパシーを感じた。95点。