Ricky リッキー

フランソワ・オゾン、2009。オゾンのファンタジーといえば『ホームドラマ』が思い出されるが、この映画はそれほどブラックではない。でもよくあるファンタジー映画でもない。物語の語り口が非常におもしろく、バカバカしく、しかも感動的だ。まず省略の上手さが際立っている。ものすごい早さで出来事が起こり状況が変化してゆく。そんななかで変化しない7歳の娘メリュジーヌ・マヤンスの視点というものが自然と浮かび上がってくる。そして空飛ぶリッキーが誕生してもなお映画の中心にはメリュジーヌ・マヤンスがいるのだ。リッキーの羽根は天使であり鶏でもあるみたいなのだが、そのガサツな取り扱いは極めてコメディ的だ。リッキーは部屋では壊れたラジコンのようにドカドカと窓や壁に衝突する。スーパーでは平気でひとりにしてしまって大騒動になるし、外では紐を離してしまって行方不明になる。そして一度は再会するも結局行方不明のままなのだ。医学的見地、異形ゆえのいじめ、マスコミの目といった社会的な側面はかなりテキトーに網羅される。終盤の湖のシーンが感動的だ。導入からショットが美しすぎる。ハイライトである母アレクサンドラ・ラミーとリッキーのシーンだ。この展開は予測だにしなかった。突如として目の前が開かれたように感じられ、母が家族を抱きしめるまでの流れがとても自然に見えるのだ。この映画は家族の幸せを、説教臭い家族の再生物語ではなく、ファンタジックに見せている。映画全体を通してバスとバイクの演出が見事だ。ラストのバイクシーンは簡潔にして完璧だった。100点。