野火

塚本晋也、2014。原作も市川崑バージョンも知らないのだが、いかにも塚本晋也らしい映画にはなっている。ただ上映時間が少し短いところを見てもわかるように、長い上映時間に耐えうるだけの脚本なり映像演出なりの強度は足りない気がした。美しい映像が多々見られるのだが、すぐにパターン化してしまう。戦争映画としての特異性は、塚本映画の特異性とかぶるだろう。自主映画的な映像スタイルとB級グロテスク描写だ。舞台は第2次大戦末期の多分フィリピン戦線だ。よくある感動戦争モノのように戦争の残酷さや人間の尊厳が大げさに高らかに仰々しく語られることは一切ない。ミニマルにデザインされた物語で、さながら密室劇のような映画になっている。冒頭で行ったり来たりを反復し、美しい自然を行く宛もなく彷徨う塚本晋也が素晴らしい。塚本の演技は終始素晴らしいのだが、この冒頭の展開はミクロな密室劇的空間を作り出し、そのミクロな世界で行き場を失う塚本が見事に設定される。もったいないと思ったのは、密室劇のようなスタイルにしていながら、フィリピン戦線ではなく日々繰り広げられる戦争へのアプローチが弱いところだ。しかしそれは原作モノだから仕方がないのかもしれない。塚本映画というのは演出技法と撮影技法において、突出している部分はあるのだが、それを極めようとはしないから総じてレベルが低くなる。それが魅力となるケースも多々あるのだが、この映画ではレベルの低さが目立った。塚本スタイルと戦争映画というのは相性がいいと思って見たのだが、密室劇が小劇団の芝居みたいに見えてしまった。90点。