海外特派員

アルフレッド・ヒッチコック、1940。『レベッカ』にはイマイチ乗り切れなかったのだが、この映画はアイデアマンとして、またサスペンス製造マシーンとしてのヒッチコックの感覚の鋭さが存分に発揮されている。有名な暗殺のシーンは暗殺そのものの衝撃度もかなりのものだし、その後の傘の演出も見事というか映画史に残るものだ。この映画では音に敏感なヒッチコックが多々見られるのだが、風車のシーンの風と風車の音と、風車小屋のなかの木製の機械のきしむ音の差異が見事に演出されている。プロパガンダ色の強い映画なのだが、だからこそエンターテイナーとしてのヒッチコックの本領発揮となっているように感じた。脚本として見た場合、あるいは役者として見た場合には、この映画は未熟な部分があるのかもしれない。しかし、プロパガンダ脚本やいい役者を使えなくてもとびっきり上等なエンタテインメントが作れてしまうことをこの映画は証明している。ここで見られるのはヒッチコック初期の集大成ともいえるものだろう。知りすぎた男が命を狙われるもひょうひょうとしていて、無理やり男女がくっついて、男女とも事件に巻き込まれてゆく。そんななんでもない話をベースにしながら、ヒッチコックは強烈なアイデアを出し惜しみすること過剰サービスのようにぶちまける。でもサスペンスやスリルはデリケートに演出されて衝撃度をコントロールする。この映画はそんなこれまで見てきた定番パターンのヒッチコック劇場で、そのなかでは一番おもしろいヒッチコックだった。100点。