断崖

アルフレッド・ヒッチコック、1941。ヒッチコックにしてはめずらしく役者に助けられているという印象の映画。ケイリー・グラントとジョーン・フォンテインがこの極端な映画に品格をもたらしているのはまちがいない。ナイジェル・ブルースもいい働きを見せていた。この映画は原題である『疑惑』が最後の最後までつづく。ケイリー・グラントは愛する価値のある放蕩大馬鹿者なのか、それとも殺人者なのか。原作では殺人者であり、ヒッチコックも殺人者にしたかったのはミルクのシーンを見てもわかる。しかしハリウッドがそれを許さなかったのだろう。で、最後は取ってつけたようなハッピーエンドで終わる。ケイリー・グラントは殺人者であろうとなかろうと大馬鹿者なわけで、その大馬鹿者を見事に演じている。人を騙しギャンブルに明け暮れ会社のカネを盗んだりとやりたい放題だ。ジョーン・フォンテインはメロドラマ的被害者女性として仰々しくない品のある演技を見せている。だからこのカップルがいっしょにいるのは疑惑があったとしても気持ちのいいものだった。ふたりの最初のキス、二度目のキス、マーダラーの文字、ミルクの階段、眼鏡をかける時間などなど、素晴らしい演出もたくさんある。ケイリー・グラントは殺人者ではなかった。だからハッピーエンドとなっているのだが実際そうは思えない。かなりのアンハッピーエンドだといわざるをえない。すでに崖っぷちにいるのだし、更生には治療というプロセスが必要だろう。ケイリー・グラントは大好きなのだがこの映画の彼には恋しなかった。恋したジョーン・フォンテインもかなりの大馬鹿者だと思う。90点。