疑惑の影

アルフレッド・ヒッチコック、1942。ヒッチコック映画は大概舞台が移動するのだが、この映画はまったく逆で、カルフォルニア州サンタ・ローザにある中の上クラスの一家が住む家が舞台になっている。テレサ・ライトが住む平凡な家に叔父のジョセフ・コットンがあらわれることで状況が変化する。ジョセフ・コットンはどす黒い煙を吐く列車とともに到来する。この異常な煙は悪魔の到来を意味するのだが、家族が悪魔によって崩壊してゆくという展開にはならない。平凡な家族はそのままに、ジョセフ・コットンとテレサ・ライトの主に心理戦がスリリングに展開されるのだ。個人的にはテレサ・ライトは『若草の頃』におけるジュディ・ガーランドに近い。家族命でありサンタ・ローザ命という感じだ。それに対してジョセフ・コットンは部外者であり悪党として描かれるだけである。悪党に惹かれる善人というのはよくあるパターンで、このふたりもはじめは愛し合っている。しかしコットン到来後しばらくしてライトは悪党がモノホンだと知り反撥する。そのあたりの心理や行動が見事な脚本や映像によって演出されている。家族想いのライトは警察に情報を垂れ込んだりはしない。ただコットンに消えてほしいだけなのだ。だから家を舞台にしているのにふたり以外はいたって平静であり、それがスリルを助長させている。刑事の活躍とロマンスの不甲斐なさや、悪党すぎるコットン演出はどうかと思う。しかし要所で見られる俯瞰ショットによる孤立の演出や、不安を煽る斜めの構図や、長い食卓シーンの巧妙な演出などは、効果的で見ていて飽きなかった。あとはテレサ・ライトがすごくよかった。95点。