緑の光線

エリック・ロメール、1985。ロメールのファンの多くにとってこの映画は特別なものだ。ロメールといえばインプロビゼーションというイメージがあるのだが、実際のところ狭義のインプロビゼーション映画というのは意外と少なく、この映画はまさにそれに当てはまる。「ヴァカンスにさすらう孤独な女」という主題とマリー・リヴィエール主演という設定だけで、脚本もなしにこの映画は撮影に入っている。そんななかであのリヴィエールのキャラクターが浮き彫りになってゆくのだ。繊細なロマンチストで現実逃避型であり情緒不安定ですぐ泣く。それなりに友人はいるのだがそれなりであり、理想主義や潔癖な性格が災いして男を望みながらも結局は避けつづけている。そんな逃避して孤独になってゆくヒステリックなベジタリアンという重くて扱いづらい女リヴィエールをロメールは見事に軽快に撮ってみせる。この映画は「喜劇と格言劇」シリーズの5作目であり、ランボーの詩の引用ではじまり、ジュール・ヴェルヌの小説「緑の光線」をモチーフにしながら進行する。ロメールが言うところの「契機」が印象的だ。緑に囲まれた柵のあるシーンの風と、山で雪をさわるリヴィエールと、階段を降り続けてたどり着く海の潮騒。そしてラストの緑の光線。不可解な女リヴィエールにシンパシーを抱くどころか、完全にリヴィエールと同期するという奇跡的な瞬間が訪れるときに感じるロメールのありがたさ。こんな女を放っておかずに追いつづけてくれてありがとうと思った。それにしても超自主映画的な撮影スタイルから感じるスリルとフットワークの軽さは気持ちがよかった。100点。