汚名

アルフレッド・ヒッチコック、1946。この映画はイングリット・バーグマンの動機づけがやや曖昧な感じがする。愛国者であることとケーリー・グラントの存在がそうさせたのだろうけれど、あんな危ないところにひとり放り込むほうも放り込まれるほうもどうかしている。この映画はスパイサスペンスであり、ヒッチコックにしてはめずらしくラブロマンスも多く扱っている。特筆すべきは暴力や拳銃や死体などの描写が一切ないことだ。どれもスリルやサスペンスの発生装置として欠かせないのだが、この映画ではそれらを用いることなく、ワインボトルや鍵によってスリルやサスペンスを見事に生み出している。とりわけ鍵のスリリングな演出が素晴らしい。鍵を盗むシーンと渡すシーンの演出はヒッチコックならではのものだ。ヒッチコック映画の全編を貫く脚本や映像演出には、どうも納得できないものが多い。雑にせっかちに作っている印象があったり、ロマンスがテキトーだったり、とにかく全編を貫く様式美を感じる作品が少ないのだ。しかしこの作品は脚本はまあまあだとしても撮影には美学を感じたし、その美学はトータライズされて様式美のようなイメージを映画全体に与えているように感じた。イングリット・バーグマンとケーリー・グラントの夢の共演映画であり、電話を使った長いキスシーンなどもあるのだが、残念ながらふたりとも抜群の存在感といったものがなかった。その分目立つのは悪役のクロード・レインズの存在感で、「かあちゃん、ぼく、スパイを妻にしてしまった」とガキっぽい大人の台詞を吐いてくれたりするのだ。だからラストはちょっとかわいそうだった。95点。