見知らぬ乗客

アルフレッド・ヒッチコック、1951。この映画のストーリーやテーマを説明しても、おもしろさは伝わらないだろう。この映画はヒッチコックらしい映像演出の映画だ。映画研究の題材の定番となっている冒頭のシーンから素晴らしい映像演出が見られる。ふたりの男が歩く靴がクロスカッティングされる。その動く方向などの対照が重要だ。そしてカメラは同じローポジションを保ったまま列車の先頭からのショットになる。ここで直線的に走っていた列車が分岐して右に折れる。この折れる方向も重要だ。そしてふたたび靴が映し出され、靴と靴がぶつかることではじめてファーリー・グレンジャーとロバート・ウォーカーが紹介されるのだ。こんなに鮮やかな導入部がありながら、映画は強力な映像演出を炸裂させまくる。殺しのサングラスやテニスの客、そしてなによりロバート・ウォーカーの佇まいの映像演出が素晴らしい。撮影は締りがあってとてもいいのだが、脚本はなんだかゆるい感じがするし、ロバート・ウォーカー以外の主な演者がいい仕事をしているとも思えない。ただこの映画は失敗しても平然としている凄腕映像マジシャンであるヒッチコックらしい映画であることは確かだ。そのらしさは他の欠点を凌駕しているとは思えないのだが、とにかく大いに楽しませてくれるのだ。ラストのメリーゴーランドなんて過剰サービスな感じで、あれはドン引きする人もいると思う。そういうことも平然とやってのけてる感じがしておもしろい。個人的には透明な密室で夫婦喧嘩をするシーンが素敵だった。95点。