ニーチェの馬

タル・ベーラ、フラニツキー・アーグネシュ、2011。馬とニーチェの逸話をもとにした物語。まず圧倒的な馬と農夫の長回しが描かれる。そして農夫の娘との生活が描かれてゆく。そこにはわずかな出来事はあれど、たんなる生活である。それが反復と差異を用いることで見事な美的空間として演出されている。カメラがとても素晴らしい。基本的に長回しは好きなのだが、この映画の長回しは本当に見事だ。そして反復と差異によってこの映画のほとんどすべてが作られている。カメラも音も反復と差異の繰り返しだ。水を汲みに行くショットの鮮やかさが印象的だ。ただひとつ反復されないのが冒頭の農夫と馬のシーンだ。それはもちろん示唆的にそう描かれていて、馬は飯も食わないし水も飲まない。馬の役割がはっきりするのが終盤だろう。馬を農夫たちを平行して描きながら類似性を徐々に提示し、飯を食わないという決定的な類似が起こる。それによってこの寡黙な農夫と娘の状況というものが馬を通してあらわされる。馬と農夫は、その平行性と類似ゆえに冒頭のシーンが反復されることはないのだ。娘の生活のリズムがこの映画のリズムとなっている。そのリズムも長回しのなかで見事に演出されている。そもそも二時間半超えの映画なんて嫌いだし、非エンタテインメント系で、モノクロで台詞が少なくて、とても見たくないタイプの映画なのだが、音と映像の反復と差異が素晴らしく、短く感じることはなかったが、長く感じることもなかった。『倫敦から来た男』は苦手だったのだが、評価が一変した。100点。