フレンジー

アルフレッド・ヒッチコック、1972。ヒッチコック映画としては極めて異色の作品といえる。まず脚本の完成度が高く秀逸であり、スタアが出ていない。個人的にはヒッチコックは脚本とスタアで失敗している部分があると思っていて、それがこの映画では役者は映画のなかに溶け込むように存在しているし、ヒロインらしいヒロインもおらず出てくる女優も現代的でありグラマラスさはない。ダブル主演といってもいいキャストもおもしろい。あとは散々警察から逃げてきたヒッチコック映画にマトモな警部が登場する。それまでヒッチコック映画の障害となってきたものがここにはない。それはそれでヒッチコックらしくないともいえる。ある意味で普通の映画に近いともいえるだろう。しかし普通の映画を撮ったときにこそ表出するヒッチコック節がこの映画では炸裂しまくっている。脚本や演者がスムーズに映画を進めるからこそ、ヒッチコックの映像演出の異常さが顕著にあらわれるのだ。ジョン・フィンチが不在となり映画はバリー・フォスターのパートとなる。その導入部の音を使ったショッキングな演出から、カメラが階段から降りてくるような演出は、他の映画でも見られたものだが、この映画では特に効果が有効に作用している。警部と妻ヴィヴィアン・マーチャントの食卓が素敵だ。ここで犯罪推理が展開されるのだが、シーンとしてはマズい料理を風刺することに焦点が当てられる。そのためショットの構成が非常におもしろい。ここでのヴィヴィアン・マーチャントは奇跡的にチャーミングだった。ヒッチコックの映像演出が、良い意味で普通の映画で炸裂している様にすごく興奮した。100点。