ファミリー・プロット

アルフレッド・ヒッチコック、1976。美男美女で魅せるのがヒッチコックのスタイルにもなっていると思うのだが、この映画では、はなからその気がない。得意のショッキングな映像演出の炸裂もほとんどなく、非常にユーモアあふれるチャーミングな映画になっている。正義と悪の構図は一応あるのだが、どちらも俗世のチンピラ風情をぬぐえない。そもそもこのふたつのカップルが並行して描かれながら、見事にひとつ物語になるという形を取りたがっているのだが、そこをヒッチコック得意の強引さでやっていてエレガントさがない。映画自体はゆっくり描いているからなのか、脚本がちゃんとしているからなのかわからないが、じっくり腰を据えて楽しめる映画になっている。この映画はアメリカ産のアメリカ映画なのだが、英国風のユーモアや気品を感じる。この映画がヒッチコックの遺作となるわけなのだが、遺作にふさわしすぎるラストがとても素敵だ。遺作じゃなかったらちょっとな、なんて思うのだが、遺作であれをヤラれたらかなわない。この映画はヒッチコックがやりたいことをやっている、もしくはやりたかったことをやっている感じが凄く伝わってきて嬉しくなってしまうような映画だ。冒頭の霊媒師のコメディでは乗り切れない感じがしたのだが、結局乗らされている自分に気がつく。歴史に残る名作とかでは決してないし、ヒッチコックのオススメ作品でもないのだが、ヒッチコックを一通り見てきてラストがこれというのは嬉しい意外性があった。95点。