ポエトリー アグネスの詩

イ・チャンドン、2010。この映画には素晴らしいところが多々ある。冒頭の反復のような形になるラストは圧倒的だ。全く休むことなく動きつづけるユン・ジョンヒは、どこで寝ているかさえ説明されない。そして認知症をわずらい、少女のような服を着て、喜怒哀楽も少なめだ。この現実世界では浮遊感すら感じるその存在感が、ラストの飛躍の必然性を高めているように思う。ユン・ジョンヒは主に詩と死にについて考えているのだが、それはずっと平行して語られている。それが最後になって融合するどころか、死んだアグネスまで憑依するかのようなラストは普通の物語よりも詩で語るにふさわしいエレガントさがあった。どこにでも出没しどこにでも足を踏み入れるユン・ジョンヒはこの映画の原動力として凄まじいパワーを持っていた。そのユン・ジョンヒをとらえるカメラがまた素晴らしい。ほぼ全編手持ちカメラでくたびれても歩を進めるユン・ジョンヒを的確にとらえていた。エキストラや偶然映り込んでいる人たちもいい感じだ。ラストのエレガントさに全部持っていかれた感があるのだが、ユン・ジョンヒの路頭の物語としても全編素晴らしいものになっている。疲弊しているような設定ながら、抜群の脚力で常に歩いている。そうやって引っ張ってくれる存在がいると映画について行くのも容易になる。だからこそ、その喪失がラストで起こると衝撃的なのだ。95点。