旅情

デヴィッド・リーン、1955。16ミリカメラで、スタッフは4人で、俳優も数名。実際はそんなことはないと思うのだが、前半はそんなノリの映画だ。つまり一歩間違えばロメール的ヴァカンス映画。もちろんそうはなってはいない。それでも当時のハリウッド映画としては格段にフットワークが軽いし、レターサイズの画面は観光写真のようで映画にフィットしていた。ロメールとはちがい、この映画ではラブストーリーをこねくり回してメロドラマにしている。でもやはり前半の、キャサリン・ヘプバーン、ヴェニスに行く!という感じのテイストがたまらなく素敵だった。例えば『リオの男』ほどではないにしても、そういうロケーションの開放感が画面からビビッドに伝わってきた。恋愛映画としては中年女の孤独がヘプバーンの顔面から見事に浮かび上がっていて、それでオッケーという感じがした。実際のメロドラマはかなり真正面から描いていて、何かをきっかけにして何かが起こるとかいうことをあまりしない。恋愛にまつわる事柄に徹することでメロドラマとしての濃縮度は増している。最後で線路を曲げる演出はうまいなと思った。線路が曲がるということは、映画のラインから外れるわけで、最後の車窓からのヘプバーンは、ヴェニスのヘプバーンではなく、オハイオ州のヘプバーンのような気がしたのだ。ここでもヘプバーンは顔の演技だけですべてを語っている。登場は喜劇的だが、さすが大女優といった貫禄を見せて映画から去っていった。95点。