無伴奏

矢崎仁司、2015。小池真理子による半自伝的恋愛小説の映画化。1970年頃の仙台が舞台となっている。いろんな意味で小説的な映画であり、その文体のようなものや演者の台詞回し、衣装や美術のビンテージ感を見る限り、大正時代の文学を読んでいるような感覚に陥った。そのイメージを視覚として決定的にしているのはローキーな画面構成だ。特に喫茶店「無伴奏」と斎藤工の茶室のローキーはやりすぎなくらいに暗い。そしてこの何度も登場するふたつのシーンが映画を決定づけている。「無伴奏」の椅子の配置はふたりを向かい合わせずに窮屈そうに並んで座らせる。これで正面からのふたりのショットが生じるのだが、その構図は映画のいたるところで使われる。それに応じる形で後方からのショットも効果的に使われている。会話のカットバックはほとんど見られず、カットの多くは視線を動機とするものが多い。視線が通常の視線の先ではなく実はその先にいる別の人へ注がれたものである、という演出が非常に効果的だった。台詞の少ない映画なのだが、視線で説明する脚本や演出の手際の良さは際立っていた。川、海、竹やぶなどのロケーションや、雨、嵐、雪も効果的だ。そのなかでも扉のインパクトはデカい。特に重要なふたつのシーンの扉は世界を隔てる重要なものになっていた。ストーリーは面白味に欠ける気がするし若干長尺な印象なのだが、一貫したスタンスは見事だった。95点。