一枚のハガキ

新藤兼人、2011。戦争を描いた映画であり、特に前半は重々しいのだが、どこか牧歌的な語り口を持った映画になっている。激しい情念を感じるのだが気楽に見れてしまうのは、新藤兼人の作品ならではといえるだろう。死を覚悟していた六平直政が豊川悦司に託した一枚のハガキ。読んだことを妻の大竹しのぶに伝えてほしい。戦後、豊川悦司は大竹しのぶに会いにいく。見せ場はそこにあるのだが、この映画ではまず戦争における死を反復させながら描いていく。そして豊川悦司は逆に死んでもらいたかった人間として描かれる。死ぬも地獄、生きるも地獄というリアルな現状がそこにはあり、それが六平直政と豊川悦司と、その家族を対照させることで描かれている。そんななか、生きる苦しみにもだえている豊川悦司と大竹しのぶは出会う。このふたりの長回しなんかは普通なら体が硬直してしまうような緊張感があっても良さそうなものだが、新藤兼人だとそうはならないから素敵だ。実際に大杉漣の後半の活躍は戦後の地獄を見事に緩和させていた。あと、豊川悦司と大竹しのぶのラブシーンを描かなかったのもすごく好感が持てた。そして戦争や家族や死の象徴であった家やハガキが焼かれ、畑が耕されていくさまは、人間の再生の物語として神々しいまでの輝きがあった。限られたロケーションや抑制された台詞など、引き算の美学を感じさせる作品である。95点。