海よりもまだ深く

是枝裕和、2016。作家とは名ばかりの甲斐性なしのダメ男である阿部寛と、それを取り巻く人々の人間模様がユーモラスなタッチで描かれている。樹木希林を筆頭に、とにかく演者の名人芸が素晴らしい。その割には退屈な脚本だなと思ってしまった。テーマとなる家族の物語の構成は素晴らしかった。父子に差異や類似性を巧みに持たせながら、三世代の物語と阿部寛の物語がひとつの物語として昇華していくさまは見事としかいいようがない。どちらかといえばシリアスなテーマをユーモラスに描いていているのも好感が持てた。しかし多少退屈であったことも否めない。終盤の団地の台風の一夜までは正直なところ期待はずれだった。しかしそれまで見るべきところがなかったわけではない。映画全体に優しさが溢れていて心地がいいし、その優しさは特にダメ男である阿部寛に向けられるのだが、優しさのさじ加減が絶妙なのだ。退屈に感じた探偵のシーンはいつも一緒にいる池松壮亮によってなんだかほんわかしたものになっていたし、団地においては樹木希林が相変わらずの怪演で阿部寛のみならず、小林聡美や真木よう子を引き立てていた。そして訪れる団地の台風のシーン。台詞とそれ以外のリレーションが素晴らしい。とても濃密な時間を堪能することができた。次の日、何も変わっていないのに、何かが変わったように見える人たちがいて、とても素敵なラストシーンだった。90点。