父と暮せば

黒木和雄、2004。原爆映画の秀作。原作は井上ひさしの戯曲。実際、戯曲っぽい脚本になっているが、カメラは大いに有効利用されており、特に頻発する長回しが緊張感を持続させている。カメラはポジションも移動にも唸らされた。宮沢りえと浅野忠信の恋物語とへ平行して語られる父、原田芳雄と娘、宮沢りえの物語は、実に多彩な模様に彩られており見ていて飽きることがない。話はすべて根底に原爆があるし、実際重々しい内容も多く含んでいるのだが、ほどよい軽妙さがあり、そのバランスは素晴らしかった。浅野忠信のパートの省略が実に見事で、それが父娘のほぼワンセットのやり取りを充実したものにしていた。物を語る力とか流れとか、そういったものが実に見事で、これは原作の素晴らしさがにじみ出ているようにも感じた。95点。

テキサスの五人の仲間

フィルダー・クック、1966。楽しく見られる西部劇コメディ。なんといってもヘンリー・フォンダが素晴らしく、あのヤバい緊張感なんかはヘンリー・フォンダの顔芸ですべて説明してみせていた。そしてヘンリー・フォンダが決して主役をガンガン張るタイプの映画ではないところもまた魅力的だ。妻役のジョアン・ウッドワードはもちろんのこと、ジェイソン・ロバーズをはじめとする五人の仲間もいい味を出していた。西部劇としては最近のもので、カメラもいい顔面をよく捉えていた。冒頭の馬車の疾走がなければ西部劇っぽさもおとなしめである。最後にどんでん返しが待っている映画を久しぶりに見たのだが、やっぱり気持ちのいいものだと実感した。95点。

忘れられた人々

ルイス・ブニュエル、1950。メキシコのストリートキッズを描いたドラマ。ブニュエルというのは単純に劇映画を作るのがうまいってことは『黄金時代』で発見されたことだと思うのだが、この作品でもそのうまさは土台になっている。そこに彼独特の変態性というか象徴性みたいなものがうまく絡み合う。それがシュールレアリズム的といわれればそれまでなのだが、夢のシーンのスローモーションで見られるイメージや、少女が乳を浴びるといういかにもブニュエル好みのシーンをはさみながら、映画はとりたてて面白いとも思えないストーリーラインからはみ出しすぎることなく進んでいく。悲劇が悲劇を生み絶望的な展開になる。いろんなシーンが目に焼き付いている映画ってそうそうないけれど、この映画はそういう映画だと思う。100点。

白い暴動

ルビカ・シャー、2019。英国で巻き起こったムーブメント、“ロック・アゲインスト・レイシズム”を追ったドキュメンタリー。僕はこの界隈の時代や人脈の流れをある程度把握しているつもりでいたのだが、こんなことがあったなんてぜんぜん知らなかった。ただ政治的なドキュメンタリーではあるものの、とてもポップな画面構成や音楽が印象的だった。イギリス民族戦線のナチ共や、モッズの流れからオイパンクなどにたどり着いたスキンヘッズが敵として登場するのだが、激しい抗争などよりも目につくのはギリギリ平和裏に行われるデモであったりする。『白い暴動』とタイトルにはあるが主人公はクラッシュではなくその歌詞であり、あくまで“ロック・アゲインスト・レイシズム”の活動家たちだ。英国ってこういう揉め事(結構ハードなの)四六時中起こしている気がするけど、文化芸術がギリギリ守られているなあと感心してしまった。主要人物では一番被害を被ったと思しきデニス・ボーヴェルがかわいそうだった。100点。

生きてるだけで、愛。

関根光才、2018。本谷有希子の同名小説の映画化。これは本を読んでから見たのだけど、本にはあった瞬発力がなくなっていて、代わりに人生の機微を丁寧に捉えた秀作となっている。映画では鬱とか躁とか睡眠障害が全面にリアルに出ており、その分瞬発力が欠けたかなという気がする。小説はあまり覚えていないが、病気なんて結構どうだってよかったように感じた。で、結局のところ、小説が面白かったから映画も見てみようと思ったわけで、映画単体で見ようというモチベーションとなるものはなにもなかった。見始めるまでは。でも実際小説より劣ると思いながら見てしまったのだが、決してつまらない映画ではなかった。趣里は主演らしく画になる女優で、菅田将暉は余裕の安定感を見せていた。仲里依紗がもうちょっとぶっ飛んでくれると良かったかもしれない。小説での仲里依紗の役はかなりイカれていたと記憶している。ラストへとつながる一連の流れは長すぎたのかもしれないが、恋愛映画としての完成度は小説に引けを取ることなく素晴らしかった。95点。

人生の特等席

ロバート・ロレンツ、2012。見逃していたイーストウッド作品だと思ったのだが、イーストウッドは出演だけで監督はちがう人だった。エイミー・アダムス(これもエマ・ワトソンと勘違いした)が主役としてリードしてくれればお話はわかりやすいのだが、アダムスひとりの部分が弱すぎて結局は父と娘の衝突と和解といったテイストの物語になっている。原題が『Trouble with the Curve』で、この原題がなかったら、カーブの打てない打者のくだりは下手なジョークのように弱々しいものになってしまう。ジャスティン・ティンバーレイクは映画にものすごく安定をもたらしていたと思う。父娘は衝突しまくるのだが、ティンバーレイクも衝突に巻き込まれる。この映画は衝突音や衝撃音が実際に耳に聞こえないものまでふんだんに使われている。でも圧倒的にイーストウッドの出す車の衝撃音が印象に残っていて、他の衝突や衝撃音が薄い。そもそもこの映画はエイミー・アダムス主演でもよかったんじゃないか。エイミー・アダムスのダブル主演でも良かったと思うし、そう仕立てたつもりかもしれないのだが、イーストウッドがのほうが衝突や衝撃度では圧倒する。ラストのキャッチの衝撃からはエイミー・アダムスの面目躍如となるのだが、そこに至る説得力が欠けていた。これがイーストウド名義だったら評価も上がっちゃうのかなあ謎だ。90点。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

庵野秀明、摩砂雪、前田真宏、鶴巻和哉、2012。『序』『破』『Q』と立て続けに見てしまったのだが、この置いてきぼり感にひたり、ああエヴァンゲリオンだと思うに至った。14年間の空白で何から何まで変わりすぎてよくわからない。見慣れた光景がないぶん、なにがどうなってんだかよくわからない部分が多い。さすがに3本連続で見ると飽きる。特に『Q』はお馴染みのメンツがいないから碇シンジの心の旅路みたくなっていて、それはそれでおもしろいのだが、もうちょっとなんとかできたような気がしないでもない。3本目でようやくエヴァンゲリオンらしくハチャメチャにやってくれましたという感じは出ている。まだ続編があるようなので奇跡的な着地点、もしくは奇跡的な暴走を見てみたい。90点。