ナチュラル・セレクション~ほんとうの私に出会う旅

ロビー・ピカリング、2011。2011年のSXSW映画祭で6部門受賞した作品。宗教まみれの環境に住む中年女と、アンチクライストな自堕落男のロードムービー。この映画はディテールが生きていないし分かりづらい。例えば最初に夫婦がレストランで食事するシーンは横並びで座るんだけど終盤のシーンでは向い合って座る。こういう細かな演出が多々見られるんだけど、80分前の何でもないシーンなんて覚えていないよなあと思った。少なくとも僕はそんなことには普段気がつかない。そういうシーンメイクは当然シナリオに難があるわけで、ラストシーンへとつながる部屋の置物は2度も登場して説明過多なのに意味が分わからなかったし、自堕落男が人違いだったというくだりも見せ場なのにちょっと分かりにくかった。現場の激しい息遣いがヴィヴィッドに伝わる映画だけに余計脚本の説明不足や説明過多が気になった。しかし脚本の拙さを補って余りある野心やスマートさを演出から感じることはなかった。あとはロードムービーならもう少し車やバイクでの移動シーンに素敵なカットがあっても良かった。90点。

エデン

ミーガン・グリフィス、2012。2012年SXSW映画祭特別審査員賞受賞作品。SXSWってもっとインディーズっぽいのを扱うのかと思って見たんだけど、これは普通のサスペンス映画。実話を基にした作品ということで、ストーリーのインパクトは強いけれど、脚本、撮影、演出などは並の映画という感じ。退屈はしなかったから、暇つぶしに見るのなら良いのかもしれない。ただ少女の人身売買の映画を暇つぶしに見るってのも趣味が悪い。つまりサスペンスとして二流。娯楽として悪趣味。アートフィルムの体裁はない。だからジェイミー・チャンのファンには楽しめる映画なのかなあと思った。90点。

ギミー・ザ・ルート ~NYグラフィティ~

アダム・レオン、2012。2012年SXSW映画祭最優秀審査員賞受賞作品。久々にニューヨークの映画を見たという感動。全編ニューヨークロケというかほぼ全編ブロンクス&ハーレムら辺ロケがたまらない。弱々しげな男と、男勝りの女。この主人公たちの何とも言えない距離感。そして彼らに起こる事象。拳銃も殺しもレイプもドラッグ(大麻はあり)もない、言わば底辺の犯罪が彼らの周りにはたくさんあり、彼らもそれに足を突っ込んでいる。そこで培われた若者の価値観や日常というものがこの映画には溢れていて、監督の眼差しはただひたすらに温かい。自転車を盗まれたり、80ドル強盗にあったりしても女はへこたれないし、アッパークラスの女に遊ばれた男もまたへこたれる様子がない。この耐久性はそのままブロンクス産の若者のタフネスを表している思う。ロケはかなりゲリラ風のロングショットの長回しが多いんだけど、その分そこに映り込む人も多くて、そこにはマンハッタンや最近のブルックリンじゃあ見られない風景や人々が映り込んでいて、そんな中にいる主役の2人はやはり素晴らしかった。100点。

ジャンゴ 繋がれざる者

クエンティン・タランティーノ、2012。上映時間165分ということで、なかなか見る気になれず、ようやく見たのだけれど、かなり分かりやすい痛快娯楽大作だったから良かった。クリストフ・ヴァルツは相変わらず素晴らしい怪演。役柄的にはとても良識のある役なんだけど怪演になってしまうところが面白い。死に際のあっけなさも見事。あとはタランティーノ映画独特のシネフィル臭が苦手な人にも十分に満足できるような作品だったことは驚きだった。本当に純粋に娯楽大作の素晴らしさを見せてくれる映画だった。興行収入とかは知らないけど、こういう映画に客が入って、タランティーノもこういう映画を年に1本くらい作れたら、それはとても素晴らしい状況だと思う。僕はシネコンとかは行かないけれど、この映画ならシネコンで見てもいいかな思わせるものがあった。郊外型ショッピングモールに併設されたシネコンにて映画鑑賞なんて吐き気がするけど、こんな映画なら吐き気も収まるような気がした。100点。

幸せへのキセキ

キャメロン・クロウ、2011。この邦題はわけわからないんだけど、ひょんなことから動物園付きの家を買った家族と、ズーキーパーなどが織りなす人間ドラマであり家族再生の物語。この映画にはスタイリッシュな映像美学や軽妙な演出などは全く見られない。とても良いお話を普通に撮っただけという印象。スカーレット・ヨハンソンもエル・ファニングも見られて満足だけど役柄的に微妙だった。あとはマット・デイモンの子供たちが素晴らしかった。でもこの良くも悪くも平凡なアメリカンヒューマニティー映画の最大の功績は、シガー・ロスのヨンシーが手がけた音楽。映像演出との調和や自然との調和が素晴らしく、この映画の価値を一気に引き上げている。この映画の何とも言えない爽快感の殆んど全てはヨンシーによる音楽の効果で、ヨンシーありがとうと言いたくなる映画だった。95点。

ウェディング・シンガー

フランク・コラチ、1998。ファレリー兄弟のような手作り感が満載の良質コメディ。でもファレリー兄弟より馬鹿炸裂度は低いしやや単調ではある。80年代が舞台だからその軽々しさも軽快さになっていて、本当に見ているだけで幸せな気分に浸れる。いわゆるバリモア・コメディは、ドリュー・バリモアが立ちすぎるきらいがあるけど、この映画はアダム・サンドラーが見事な好演。その他の配役も素晴らしく、ちょっと出てくるだけのブシェミとかビリー・アイドルも効いていた。あとは80年台音楽が満載で、知っていればより楽しめるけど知らなくても十分に楽しめる感じだった。ただ85年が舞台の98年の映画を2014年に見るというのは、ちょっと全てのタイムラグが短すぎてちょっと変な感じだった。この映画もうちょっとウェディングホールのシーンがあっても良かったと思うなあすごく素敵だったもの。100点。

きいろいゾウ

廣木隆一、2013。夫婦がお互いを「ツマ」「ムコサン」と呼び合う映画なんて恥ずかしくて見てられない。そして苦行ともいうべき関西弁。お話しもここまで酷いと原作が読みたくなるけど読まない。原作が人気で映画が不人気ということは、まず脚本を疑う。脚本はもちろんアウトなんだけど演出もアウト。131分という長尺はどうしても解せない。廣木隆一はもうちょっと面白い映画を撮る人だと思っていたけど、この映画は職業監督に徹しているのか顔があまり見えなかった。でもこの映画はエンディングでいきなりゴスペラーズが歌い出すぐらいから、何かテレビ的なスポンサー付きビッグバジェット的な映画なのかもしれない。宮崎あおいは知的障害の役だと思うんだけど、そういう説明がないからもう情緒不安定だし幼稚なおしゃべりだしサイコキラーになるしで本当に怖かった。いわゆる「宮崎映画」でこの仕打ちはないよなあ。宮崎あおいはこないだも旦那を「ツレ」って呼んでたし、ツイてないなあ。85点。