ベルヴィル・ランデブー

シルヴァン・ショメ、2002。フランスのアニメーション映画で、アメリカでも大変流行った映画。なんかちょっとジュネキャロの『ロスト・チルドレン』を思わせる部分がある。殆ど無言映画なんだけれど、もの凄く音の映画で、いつでも音が重要なポイントとなっている。この映画は本当に素晴らしい映画なんだけれど、何が素晴らしいかというとまずはシーケンスメイク。これは映画の常套句的なものをふんだんに使って、更に実写では出来ないイマジネーション溢れるアイデアが、シーンを見事に際立たせている。話の内容はおばあちゃん子の少年が何も興味を見せないんだけれど、自転車に興味を持っていることが分かり三輪車を勝ってあげたら大喜びで、年が経つにつれ自転車になり、競技用の自転車になって、おばあちゃんと猛特訓の末ツール・ド・フランスに出るんだけれどそこで誘拐されて、、、という内容。感情移入を寄せ付けないキャラクター造形や、おばあちゃんと子供の再会シーンや、エンディングには相当に感動した。外しのテクニックというか、感情移入を排除してお涙ちょうだいを徹底的に拒んでいて、そのスタイル自体、非常に感動的でクールだったね。あとは3姉妹ってのが出てきてそれがまた素晴らしい。面白い映画。

幸せパズル

ナタリア・スミルノフ、2010。これはミニシアター映画らしく、もの凄く癒やされる映画であり、もの凄く心を振るわせる映画であり、もの凄く心にぬくもりを感じる映画。映画のヒロインに恋をすることって沢山あるんだけれど、この映画のマリア・オネットは50歳という設定で、しかしチャーミングでビューティフルなとてもいい女。ちょっとファッション映画っぽさもあってかわいい服ばかり着ているし、黄色味のかかった映像も美しかった。カメラは基本的もの凄いアップでもの凄い被写界深度が浅い。だから映画館で見ると凄く楽しい作品たったろうね。その中をマリア・オネットが特別な事に遭遇するでも無く存在している。スペイン語圏の映画っていうのは、やはりパッケージ化されていても日本語化されていないものがメチャクチャ多い。主演のマリア・オネットもIMDBなんかで見るとちょいちょい映画に出ているが、日本語化は初めて。この映画はアルゼンチンの映画だけれどフランスが製作に絡んでいるから良かったものの、アルゼンチン単独で製作していたら、でっかい映画賞でも獲らない限り日本には伝わらない。スペイン語圏はメキシコ、アルゼンチンなど映画の大国があるんだけれど、言語の壁で日本には流通していない映画が多い。とても残念。

歓びを歌にのせて

ケイ・ポラック、2004。この映画は2004年のスウェーデン映画で2005年のアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた映画。天才コンダクターが心身共に疲れ果て故郷に戻って隠居生活を始めようとしたら、聖歌隊に興味を持ち、指導をしていくうちに彼の人生で手に入れていなかった多くのものを得て、しんでしまう映画。これはちょっと面白くない映画だったね。まず131分という尺。そこまでしぶとく見る側を引きつける能力はこの映画にはない。100分くらいの映画という感じ。そしてシナリオが過剰すぎるのも問題。ドメスティックバイオレンスとか、あの男の描写は何なんだろう。牧師の描写もしかり。主人公もしかり。シナリオは過剰で説明的。この映画で豊満な裸体を見せたフリーダ・ハルグレンは笑顔がかわいかったなあ。でも今度のコンダクターとの恋も初セックスの翌日にコンダクター死んじゃうんだよね多分。それで映画は終わる。この映画の欠点は芸術であるはずの音楽、映画というものがどうも万人受けを狙っている感じがするってこと。万人受けする映画は面白い映画ではないことが多い。これは音楽もしかりだと思う。この万人受け加減は、これもシナリオの問題が大きい。でも映画はシナリオに負けない予算規模や演出の可能性を持っているのだけれど、生かされていないなあ。ところでスウェーデン人男性というのはこんなに怒鳴るのかね。この映画ではいろんな人が怒鳴り散らしていて、気味が悪かった。

SR サイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~

入江悠、2010。何か入江は青春映画ばかり作っている感じがする。この映画も正しく青春映画で、学祭でやったラップグループをリユニオンしようとして失敗するというのがあらすじなのだけれど、厳しい現実が続々と現れて、結局水着でプールでラップしただけでリユニオンは終わってしまう。勿論高校生時代の学祭は青春だったんだろうけれど、この映画を青春映画と感じられると言うことは、10年後の殆ど上手くいかないリユニオン、これ自体も青春であり、その登場人物の意思の方向に関して入江の視線は限りなく優しい。でもね、第一作に比べてラップが下手すぎるのは問題だよね。フリースタイルのリズム感が良くないし、リズムの入った曲なんて、パラッパラッパーみたいだった。この映画は最近見た『ブンミおじさんの森』と違って長回しを効果的に使っているよね。

ブンミおじさんの森

アピチャッポン・ウィーラセタクン、2010。この作品はカンヌ映画祭パルムドール受賞作品であるという肩書きが無ければ、単なる古くさい映画として捉えられるべき作品。中国第5世代や台湾ヌーベルバーグの中にはこういう作品は沢山あった。そういう意味では自然なものに対するアプローチは、人工なものに対するアプローチよりも、普遍的であり、流行に左右されない。だから2010年にこの映画が作られたことは都市のドラマのような致命傷では無いけれど、何の驚きも無い。自然に甘えている映画だと思う。でもグローバルな展開を目指すカンヌ映画祭と、審査員長ティム・バートンの思惑が一致して、この作品がパルムドールに選ばれた。まあパン兄弟の映画などに比べれば圧倒的に「芸術的」ではあるし、保守的な観点から見れば自然にSFを持ち込むなんて挑発的な映画であることは間違いない。とにかくこの映画が僕の手元に届いたのは、カンヌでパルムドール。何故パルムドールかと言えば、審査員長はティム・バートンだったから。それだけなんだよね。中身はアジア映画愛好家としては凡庸な映画だと思うなあ。

トラフィック

スティーヴン・ソダーバーグ、2000。ベニチオ・デル・トロに惚れるならこの映画だと思う。他あまり知らないけれど。この映画のメキシコの色使いとベニチオ・デル・トロは凄まじく相性が良く、この映画はつまらないタイトルを補完する形で『ベニチオ・デル・トロのトラフィック』というタイトルでも良かったんじゃないかと思うね。この映画はもう完全な男性上位社会の原作、シナリオで、日本で言えば60年代くらいまで、アメリカで言えば30年代くらいまでの封建的な映画の価値観を地で行くスタイル。だからこそ描けるキャサリン・ゼタ・ジョーンズというキャラクター。男社会における女の存在としてここまで突破力のある人間というのはそうたやすく描けるものでは無いよなあ。この映画は、多分ここはソダーバーグの力の及ぶところなんだろうけれど、人物の感情に深追いしない。もの凄く思惑と感情が渦巻くドロドロとした世界の話しなのに、もの凄くカラッとした作品に仕上がっている。日本映画だとこういうカラッとした感じが出せなくて、仁義なき戦いシリーズでも、僕はこの映画に匹敵するカラッと感が出ているのは『仁義なき戦い 代理戦争』くらいじゃないかなと思うね。その点アメリカは西部劇やマフィア映画はカラッとしていて、とてもエンタテインメントなんだよね。日本のマフィアものなんて、演歌のステージみたいなんだよ。そういうところ、僕はアメリカ映画は凄いなあと尊敬しているんだよね。でもこの映画は2時間半くらいあって、ハリウッドの上映時間の歴史の一つの汚点として反省してもらいたいね。

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山下敦弘、2011。非常識的な山下節を楽しもうと思ってこの映画を見ても、それは原作とビッグバジェットの中に埋もれてしまって見つけることは出来ない。ただ、山本剛史の好演は、存在しているだけで冗談とも言える馬鹿馬鹿しさがあり、そのフェイク感は松山ケンイチのフェイクな感覚と一致する。そして妻夫木はフェイクな立場としてどやで働いたりしている新聞屋である。そんな本物になれないというもどかしさを持った二人が出会うことによってこの映画は始まりを迎える。それにしてもそれまでのドラマのくだらなさと言ったら無かったね。多分妻夫木の部屋で妻夫木と松山の長回しからのカットバックを連続するのシーンは映画が30分くらい経過していたと思う。異常に遅い立ち上がりを見せたから結局無駄に長い映画になってしまった。この映画は『ノルウェイの森』よりも長いんだよ。ノルウェイの森は自然というロケーションがあったからリー・ピンビンの神業レベルの撮影が素晴らしかったけれど、この映画は自然があるところに行かないから必然的にロケーションは使えない。屋内での撮影が多すぎて近藤龍人特有のロケーション撮影は見られず残念。その上、後処理か何かよく分からないけれど、あの頃の映像の色合いを作っていて、それは好きでは無かったね。リー・サンイルは『69』作ったけれど時代なんてすっ飛ばしていた。僕はああいう挑発的な映像作りの方が好きだね。この映画は映像も、シナリオも、役者も、全てが真面目すぎる。山下得意のダメ人間物語としてこの映画を見ることも出来るけれど、そんなの重要な問題では無い。山本剛史の持っていた馬鹿馬鹿しさ、これは殆どの登場人物が持っているものであるはずだし、そのような演出が多々見られるんだけれど、効果を発揮していない。妻夫木と松山の話に戻すと、フェイクな人間妻夫木が、フェイクな人間からリアルな人間になろうとしている松山に、ある特別な思いを持った。でもリアルマンになるための活動で決定的なミスを犯し、2人の間には齟齬が生まれた。そして妻夫木は事件にちょろっと絡んでいるから新聞屋を懲戒解雇されて逮捕。今までの伏線からエンディングは見え見えなんだけれど、素晴らしい。あとはミトのベースは映画の可能性を感じたね。山下はジェームズ・イハとかレイ・ハラカミとか、音楽担当に恵まれすぎている。みんな素晴らしい仕事をしていた。