CURE キュア

黒沢清、1997。この映画は公開当時に劇場で見てよくわからなかった。一緒に見た友人は大傑作だと興奮していた。だからもう一度見たのだが、やっぱりよくわからなかった。サイコサスペンスのようなドラマなんだけど、現実味のある人がドライに人を殺すから面白いのだろうと思う。液体のモチーフや光のモチーフを見逃しているとよくわからなくなる。説明を省いた映画なのだが、結局見る側の想像力に委ねる部分が多すぎてげんなりしてしまった。社会に異物が混入すると回りがどんどん変わっていくという意味では『人間合格』と近いものを感じた。深読みの誘惑に駆られることなく見終わってしまったのは残念である。90点。

きみの鳥はうたえる

三宅唱、2018。この映画は佐藤泰志の原作なのだが、映画化すなわち傑作というのがまたも証明された。柄本佑、石橋静河、染谷将太による青春映画。寄りの画が非常に多くって、顔の映画になっている。3人のキャラクター造形が見事で、とりわけ柄本佑と石橋静河は素晴らしかった。表情をずっと見ていたかった。この青春の具合も素晴らしくてダメなんだけどどん詰まり感はないし、取り立てて大きな出来事があるわけでもないのに魅せてくれる。恋愛のドロドロ感の抑制も素晴らしい。3人の世界とそれ以外の世界のバランス描写も見事だ。映画の内容と映画の尺がちょうど行き詰まりそうになるところで展開が生まれ映画が終わるのもとても好感が持てた。あとは照明が素晴らしい。クラブのシーンがいい。95点。

寝ても覚めても

濱口竜介、2018。なんだかスケール感のある演出に圧倒された。そんなに大した事件などが起こるわけでもないのに、ワクワクドキドキしながら映画に見入ってしまった。ただストーリーの決定的な部分、東出昌大を追っかけちゃう部分があまり理解できなくて残念だった。しかしこの難役を唐木エリカは素晴らしい能面一本調子演技で乗り切っていると思う。この作品は最近見たなかではすごく映画的だなあと思った作品で、こだわりの配色とかショットとか、定番の鏡の使い方や高低差の使い方や非日常的な描写などが憎らしいほどにしっかり描かれている。映画技法のお勉強にも使える映画だ思う。95点。

恋は雨上がりのように

永井聡、2018。昨日見た『勝手にふるえてろ』は変化球バリバリ使っていた映画だけれど、この映画はかなりの直球勝負で、そこに物足りなさを感じた。爽やかな青春ラブストーリー。そしてそれを維持させた大泉洋の物語も描かれていておもしろい。よくできたストーリーラインだと思うのだが、描写が普通すぎて脚本からのブラッシュアップが足りないという印象を受けた。登場人物全員いい人系の映画は安心して見られるから好きだ。大泉洋の役柄には共感すべき点が多々あり、我が事のように見ていたのだが、自分ならあんな大人の対応なんてできやしないと思った。小松菜奈は漫画が描くキャラクターのような造形美があり、とてもよかった。90点。

勝手にふるえてろ

大九明子、2017。オリジナルではないことは容易に想像がついたのだが、てっきり漫画原作だと思っていた。でも綿矢りさの小説が原作と見終えてから知り、原作を読みたくなった。それくらいにこの映画は自由な展開を見せる。前半は本当にワクワクした。でも中盤以降はただの恋愛モノに成り下がった感が否めなかった。ラストの構成もいまいちピンとこず、自分ならセリフ、キス、音楽ドカンという感じで一気に見せたと思う。松岡茉優はこの決して傑作とは言えない映画を素晴らしい技量でコントロールしていた。序盤のスピード感を落として終盤はドラマを見せようとしているのだが、そのドラマが弱い。登場人物の内面の魅力の無さというかリアリティというか、そういう部分は残念だった。原作モノの映像化という意味ではよくできているのではないかと思った。95点。

新聞記者

藤井道人、2019。こういう社会派映画をやらせたらやっぱアメリカだよなあと痛感した。あと韓国もこの映画よりは上のものが多くある。まず脚本がどうなんだろうという疑問が残る。もしくは演出が悪いのかもしれない。サスペンス調なのにどうも鈍い映画に思えて仕方がないのだ。結局のところ、よくこの内容の映画が撮れたものだ、日本には表現の自由があまりないとはいえ、ここまでの作品ができるのだから素晴らしいではないか、というような文脈くらいしかこの映画を語る視点ってないような気がする。主演はシム・ウンギョンなのだが、映画にはすごく合っていたというか彼女の映画になっていた。しかし日本語にやや無理があるためもっと日本語のうまい女優で見たかった。90点。

マリッジ・ストーリー

ノア・バームバック、2019。主演のふたり、スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライヴァーがもう本当に素晴らしい。長いシーンなんかでは特にふたりの本領が発揮されていて、素晴らしい長回しもあるのだが、カットを割っていてもきっと長回しの一発撮りでやってるんだろうなという緊張感がある。ローラ・ダーンやレイ・リオッタなどの脇もしっかり強固な布陣になっている。そこにコメディな要素がバンバン入ってくるからすごく効き目があった。離婚劇なのだが、ドラマチックな内容とは言い難い。細かいところをリアリスティックに描いていて、小綺麗にまとまっていないところも好感が持てた。もう一度見てみたくなる映画だった。95点。

i -新聞記者ドキュメント-

森達也、2019。東京新聞の社会部記者、望月衣塑子を追ったドキュメンタリー。望月のエネルギーには恐れ入るのだが、ちょっと追っかけドキュメンタリーに傾倒してしまっていて、本来あってほしいと願っていた森達也独特の視点というのはあまり感じられなかった。森が官邸に入れないという一連のくだりは面白味に欠けた。ファンタジー好きなのは相変わらずでアニメまで登場する。そしてアニメのような現実世界が描き出される。望月と菅とのバトルなんかは見どころのひとつなのだがは既視感があった。この国にほとんど絶望している人間としては、森にしても望月にしてもこういう人がいてくれないと困ってしまうなあと思った。90点。

13th -憲法修正第13条-

エバ・デュバーネイ、2016。Netflix映画。BLMを知るたの映画としては最適なのではないかと思う。時系列に沿って黒人差別の歴史が説明されていくのだが、例えば公民権運動なんかはほとんど扱わない。現代までずっと形を変えて生き続ける奴隷制度とそのシステムがどうやって成り立っていくのかということが克明に記録されている。特に近年の状況は知らないことも多く大変興味深かった。過去と現在の映像に類似性をもたせたりしているのだが、ちょっとここまで過去と現在が類似してしまっている、つまり近しい状態にあるというのはショッキングだった。95点。

荒野の用心棒

セルジオ・レオーネ、1964。黒澤明の『用心棒』をごっそり引用したパクリ映画。黒澤明とセルジオ・レオーネの演出のちがいなど、見るべきところはたくさんあったのだが、所詮は娯楽活劇というわけで、普通に楽しみながら見てしまった。マカロニウエスタンを見たのは数十年ぶりなのだが、アメリカとメキシコとイタリアがごちゃまぜになっていてフォークロア的なジャンルだなあと思った。『用心棒』と比べると、ユーモアは欠けるが迫力はすごい。悪役ジャン・マリア・ヴォロンテの迫力、爆薬や銃撃戦の迫力などは、この映画のほうが楽しめる。イーストウッドも一匹狼らしさがとても出ていて三船に劣らぬ存在感があった。『用心棒』と比較してしまうと品質はやや落ちると思うのだが、娯楽作品としてどちらもおもしろい。95点。