博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか

スタンリー・キューブリック、1964。ブリティッシュなブラックユーモアについていけず。しかし一人三役のピーター・セラーズ劇場としては申し分なし。やはり特にドクター・ストレンジラヴは強烈だったし、彼からラストへと流れるところなんかはすごくかっこいい編集だと思った。セリフが多いんだけどこれくらいだと普通の日本人でだいたい読めるのだろうか。自分には多すぎて途中で読むのをやめてしまった。もしもう一度見る機会があれば吹替版で見たいところ。女性がほぼ皆無のなか、一人だけ愛人役みたいなのが出ていたシーンがすごく印象に残っている。90点。

裁かるるジャンヌ

カール・テオドア・ドライヤー、1928。この映画は、本来のリアリティを獲得するために、映画的なリアリティを排除して作られている。ジャンヌに対する接写の連発。ローアングルからの登場人物のパンの連発。そしてときおり見せる空間認知を惑わせる反転ショット。ロングショットはめったにないし、シーンの説明ショットもない。ショットとショットの時間的物質的なつながりもない。特に特異な撮影方法は映画空間を抽象化することで、映画が本来持っているリアリティを圧し殺すことに成功している。そしてジャンヌ。サイレント映画はときとして、登場人物が遠くに感じられることが多いのだが、ジャンヌはべらぼうに近い。映画というのはリアリティを生じさせるのが難しい媒体だと思うのだが、この映画は映画の枠組みを抽象化したり解体することで、ジャンヌはかなりのリアリティを獲得している。なにせドライヤーだから何度も見なければわからない部分が多いのだが、久しぶりにパンチのある映画に出くわした。100点。

早春

イエジー・スコリモフスキ、1970。まず、東欧の映画によく見られるような、赤や緑や黄色を配色したポップな映像が目を引く。中でもやはりジェーン・アッシャーの黄色のレインコート。このレインコートで映画の色は決定的になったと思う。映像はすごくむき出しで猥雑で荒々しい。落ち着いたショットなんて前半はほとんど皆無と言ってもいい。そのゴリゴリとした感触もこの映画の大きな特徴だと思う。記憶に残るシーンが多く、そのインパクトは計り知れない。カンの音楽も非常に効果的。ちなみに資本はアメリカと西ドイツ、撮影は主にミュンヘンらしい。95点。

情婦

ビリー・ワイルダー、1957。アガサ・クリスティ原作。芝居の流れが非常に早く手際がよい。当然セリフも早くなってまったく字幕には追いつけなかったけれど、看護婦とチャールズ・ロートンが織りなす喜劇が最高にキレッキレで面白すぎた。この映画は最後に大どんでん返しがあるのだが、それも納得の出来て、マレーネ・ディートリッヒもラストがあるからこそ輝いていた。久しぶりに2時間があっという間に過ぎてしまう映画を見た。ちゃんと要所ではブリティッシュイングリッシュが響いていたし英国らしさもあったのがうれしかった。95点。

時をかける少女

大林宣彦、1983。大林宣彦というとモダンな演出で洗練された映像美を見せるイメージがあるのだが、この映画は手作り感覚満載の自主映画的ノリで作られている。次の『廃市』がとても良い映画で、以前の『転校生』も評価が高いから、この映画の評価は微妙なところだと思う。物語がなんだかのっそりとしていて、それを繰り返すものだからいまいち映画に入っていけなかった。それでも大林映画のジャン・ピエール・レオこと尾美としのりは健在だし、なによりも尾道の風景が素晴らしい。そして撮り方もかなりオールドスクールで、演者も入江たか子や上原謙を配したりとオールドムービーへの愛情が満載である。そしてこの有名なタイトルがあってもなおイマイチ感が拭い去れなかったのは残念だった。次は『転校生」を見たい。90点。

日の名残り

ジェームズ・アイヴォリー、1993。執事のアンソニー・ホプキンスを中心に屋敷の様子を抑制の効いた演出でストイックに描いている。ストイック過ぎて眠くなってしまった。どうも戦争が絡んでいるらしいがそれほど取り扱われず、内容も政治的な部分とかちょっとわからなかったから2度見たほうがいいと思った。けれど2度見るほどおもしろいとは思えず。英国映画大好きなのだがアイヴォリーってアメリカだからちょっと描き方がちがってくるのかなあと思った。エマ・トンプソンは終始好演していたが、どうも最初の手紙のシーンに気品がなさすぎてついていけなかった。決してつまらない映画ではないので、もう少し味わえればよかったのだが。90店。

横道世之介

沖田修一、2012。とても良い映画だし、長い映画になるのは必然だと思うのだけれど、あまりにも長すぎる。20分くらいは縮めてほしかったところ。沖田修一作品も撮影の近藤龍人も大好きで、ふたりの良い部分は存分に味わえる映画だったかなと思う。とても不思議な脚本になっていて、特に中盤以降は高良健吾のなんでもない数年間のできごとが、十数年後の友人たちから語られる構成が目立ち、写真のシーケンス以外はこれといって感動的ではないのも不思議な感じだ。これはひとえに高良健吾の感動の与えなさの勝利であると思う。高良健吾は美化されず、十数年後の友人たちも美化したりはしない。ただ高良健吾を触媒にして人は輝きを放つ。そんななかで見えてくる部分と見えてこない部分が入り交じることで、物語は豊潤なものになっていた。演者はみんな素晴らしいのだが吉高由里子がとりわけ魅力的だった。95点。

タクシー運転手 約束は海を越えて

チャン・フン、2017。韓国で1980年に起きた光州事件をめぐるジャーナリストとタクシー運転手の事実に基づく物語。カメラはほとんどソン・ガンホを追っており、それゆえに視点はソン・ガンホに固定される。この事件というか当時の情勢がどこまで世に知れ渡っていたのかはわからないが、ソン・ガンホは何も知らないただの心優しき愛国的なキャラクターである。そんな視点から広州事件が描かれているのがおもしろい。描き方もドキュメンタリー的にはならず、娯楽映画なのだが、娯楽的なアクションは控えめで、軍による虐殺シーンなんかはスマートに撮っている。やはり恐るべきはソン・ガンホで、コミカルな面の信頼性は抜群であり、シリアスな面の複雑な心情も見事に演じている。あと演者ではタクシー運転手のユ・ヘジンが強烈な存在感を見せつけていた。95点。

アルカトラズからの脱出

ドン・シーゲル、1979。実話をもとにした脱獄モノ。基本的にはサスペンスやスリラーを基調として描かれている。つまらない映画ではないのだが、エキサイティングだったかと問われると、まずまずとしか言いようがない。ではなにがまずまずエキサイティングな映画にしているのかといえば、まずはイーストウッドの好演だろう。頭が良くて体が強くて、どこかユーモアもあるキャラクターはイーストウッドならではのものだろう。あとはこの映画は脱出に重きが置かれているため、刑務所の生活描写をあまりしていない。かなりストイックな構成になっているのだが、それでも飽きさせないのは、ドン・シーゲルの演出力によるところが大きいと見た。脚本もよくできている。演者も好演が目立つ。それでもこの映画は、ベッケルやブレッソンの脱獄モノと比較すると、どこか凡庸な感じがしてしまった。95点。

終電車

フランソワ・トリュフォー、1981。ドイツ占領下のパリの劇場を舞台にしたドラマ。映画を構成する各要素が素晴らしい。人の動きやカメラワークは絶品であるし、道具の使い方も申し分ない。カトリーヌ・ドヌーヴのエロスは健在で、炸裂していたといってもいい。 ジェラール・ドパルデューも悪くない。演者は総じて好演をしている。だがこの映画にはヌーヴェル・ヴァーグ的な遊び心が少なすぎるし、トリッキーな演出も控えめだ。かといって正面突破のクラシック映画とするならばドラマが弱い。上映時間は個人的にはあっという間にすぎたものの、やや長いため軽さみたいなものがなくなってしまっているし、かといって重厚さは演出上排除されている。だから素晴らしい演出はたくさん見られるのだが、その演出自体がこの映画の見所になってしまっている。あとはやっぱり見所はカトリーヌ・ドヌーヴ。95点。