忘れられた人々

ルイス・ブニュエル、1950。メキシコのストリートキッズを描いたドラマ。ブニュエルというのは単純に劇映画を作るのがうまいってことは『黄金時代』で発見されたことだと思うのだが、この作品でもそのうまさは土台になっている。そこに彼独特の変態性というか象徴性みたいなものがうまく絡み合う。それがシュールレアリズム的といわれればそれまでなのだが、夢のシーンのスローモーションで見られるイメージや、少女が乳を浴びるといういかにもブニュエル好みのシーンをはさみながら、映画はとりたてて面白いとも思えないストーリーラインからはみ出しすぎることなく進んでいく。悲劇が悲劇を生み絶望的な展開になる。いろんなシーンが目に焼き付いている映画ってそうそうないけれど、この映画はそういう映画だと思う。100点。

白い暴動

ルビカ・シャー、2019。英国で巻き起こったムーブメント、“ロック・アゲインスト・レイシズム”を追ったドキュメンタリー。僕はこの界隈の時代や人脈の流れをある程度把握しているつもりでいたのだが、こんなことがあったなんてぜんぜん知らなかった。ただ政治的なドキュメンタリーではあるものの、とてもポップな画面構成や音楽が印象的だった。イギリス民族戦線のナチ共や、モッズの流れからオイパンクなどにたどり着いたスキンヘッズが敵として登場するのだが、激しい抗争などよりも目につくのはギリギリ平和裏に行われるデモであったりする。『白い暴動』とタイトルにはあるが主人公はクラッシュではなくその歌詞であり、あくまで“ロック・アゲインスト・レイシズム”の活動家たちだ。英国ってこういう揉め事(結構ハードなの)四六時中起こしている気がするけど、文化芸術がギリギリ守られているなあと感心してしまった。主要人物では一番被害を被ったと思しきデニス・ボーヴェルがかわいそうだった。100点。

生きてるだけで、愛。

関根光才、2018。本谷有希子の同名小説の映画化。これは本を読んでから見たのだけど、本にはあった瞬発力がなくなっていて、代わりに人生の機微を丁寧に捉えた秀作となっている。映画では鬱とか躁とか睡眠障害が全面にリアルに出ており、その分瞬発力が欠けたかなという気がする。小説はあまり覚えていないが、病気なんて結構どうだってよかったように感じた。で、結局のところ、小説が面白かったから映画も見てみようと思ったわけで、映画単体で見ようというモチベーションとなるものはなにもなかった。見始めるまでは。でも実際小説より劣ると思いながら見てしまったのだが、決してつまらない映画ではなかった。趣里は主演らしく画になる女優で、菅田将暉は余裕の安定感を見せていた。仲里依紗がもうちょっとぶっ飛んでくれると良かったかもしれない。小説での仲里依紗の役はかなりイカれていたと記憶している。ラストへとつながる一連の流れは長すぎたのかもしれないが、恋愛映画としての完成度は小説に引けを取ることなく素晴らしかった。95点。

人生の特等席

ロバート・ロレンツ、2012。見逃していたイーストウッド作品だと思ったのだが、イーストウッドは出演だけで監督はちがう人だった。エイミー・アダムス(これもエマ・ワトソンと勘違いした)が主役としてリードしてくれればお話はわかりやすいのだが、アダムスひとりの部分が弱すぎて結局は父と娘の衝突と和解といったテイストの物語になっている。原題が『Trouble with the Curve』で、この原題がなかったら、カーブの打てない打者のくだりは下手なジョークのように弱々しいものになってしまう。ジャスティン・ティンバーレイクは映画にものすごく安定をもたらしていたと思う。父娘は衝突しまくるのだが、ティンバーレイクも衝突に巻き込まれる。この映画は衝突音や衝撃音が実際に耳に聞こえないものまでふんだんに使われている。でも圧倒的にイーストウッドの出す車の衝撃音が印象に残っていて、他の衝突や衝撃音が薄い。そもそもこの映画はエイミー・アダムス主演でもよかったんじゃないか。エイミー・アダムスのダブル主演でも良かったと思うし、そう仕立てたつもりかもしれないのだが、イーストウッドがのほうが衝突や衝撃度では圧倒する。ラストのキャッチの衝撃からはエイミー・アダムスの面目躍如となるのだが、そこに至る説得力が欠けていた。これがイーストウド名義だったら評価も上がっちゃうのかなあ謎だ。90点。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

庵野秀明、摩砂雪、前田真宏、鶴巻和哉、2012。『序』『破』『Q』と立て続けに見てしまったのだが、この置いてきぼり感にひたり、ああエヴァンゲリオンだと思うに至った。14年間の空白で何から何まで変わりすぎてよくわからない。見慣れた光景がないぶん、なにがどうなってんだかよくわからない部分が多い。さすがに3本連続で見ると飽きる。特に『Q』はお馴染みのメンツがいないから碇シンジの心の旅路みたくなっていて、それはそれでおもしろいのだが、もうちょっとなんとかできたような気がしないでもない。3本目でようやくエヴァンゲリオンらしくハチャメチャにやってくれましたという感じは出ている。まだ続編があるようなので奇跡的な着地点、もしくは奇跡的な暴走を見てみたい。90点。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

庵野秀明、摩砂雪、鶴巻和哉、2009。前作にあたる『序』は、テレビシリーズの延長線上にあるように見えたのだが、この『破』はテレビシリーズをいい意味でも悪い意味でも飛び抜けている。やたらと熱い映画になっているし、特に碇シンジと綾波レイはテレビでは見られなかった部分を恥ずかしげもなく見せる。それが映画の中心となるからまあ面白い。映像の迫力もテレビと比べてはいないけれど、相当なものがあって、その迫力に押されて圧倒されながら全編見てしまった。前作とちがいテレビシリーズを踏襲していない部分が多いから、にわかファンにとっては何がどうなってんだかさっぱりわからなくなってしまうのだが、多分わかる必要もないのだろうなとは思った。娯楽エンタメ路線が炸裂しているのだからそれで十分なのだ。でも、シンジとアスカがユニゾンするやつ、あれは見たかったなあと思った。懸案事項としてはもうひとつ『Q』というのがあってそれが無料期間中に見られればいいのだが、無料期間が終わったら見ないだろうからゴールデンウィーク中になんとか見たいものだ。95点。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

庵野秀明、摩砂雪、鶴巻和哉、2007。なんだかサラリとしたきれいなテレビリメイクになっていて驚いた。映画もシリーズになっていて、この「序」は特にオリジナルに忠実であると想像する。これでは商業的意図が丸見えのリメイクにしかなっていない。これはそもそもどこまで新しい映像でどこまで古い映像なのか、にわかファンにはまったくわからない。この映画にはテレビシリーズ6話までが入っているらしいのだが、テレビだともう少し実験的なことをやっていたような気がする。そういう部分があってのエヴァンゲリオンという気がしていて、要はその慣例からはみ出す感じが魅力なのだ。対してこの映画はかなり普通に作られているような印象を受けた。正統派といえば響きはいいし、わくわく見られるのだがテレビにはあった野蛮さがない。当然それは狙いとしてやっているわけなのだが、そう考えるとこの映画も連作で見ないと評価がよくわからない。しかもラストの作品は未だに公開されずときたものだから、エヴァンゲリオンのファンはよく付き合うなあと感心させられた。とにかく無茶は避けて滑り出したという印象。90点。