白い暴動

ルビカ・シャー、2019。英国で巻き起こったムーブメント、“ロック・アゲインスト・レイシズム”を追ったドキュメンタリー。僕はこの界隈の時代や人脈の流れをある程度把握しているつもりでいたのだが、こんなことがあったなんてぜんぜん知らなかった。ただ政治的なドキュメンタリーではあるものの、とてもポップな画面構成や音楽が印象的だった。イギリス民族戦線のナチ共や、モッズの流れからオイパンクなどにたどり着いたスキンヘッズが敵として登場するのだが、激しい抗争などよりも目につくのはギリギリ平和裏に行われるデモであったりする。『白い暴動』とタイトルにはあるが主人公はクラッシュではなくその歌詞であり、あくまで“ロック・アゲインスト・レイシズム”の活動家たちだ。英国ってこういう揉め事(結構ハードなの)四六時中起こしている気がするけど、文化芸術がギリギリ守られているなあと感心してしまった。主要人物では一番被害を被ったと思しきデニス・ボーヴェルがかわいそうだった。100点。

生きてるだけで、愛。

関根光才、2018。本谷有希子の同名小説の映画化。これは本を読んでから見たのだけど、本にはあった瞬発力がなくなっていて、代わりに人生の機微を丁寧に捉えた秀作となっている。映画では鬱とか躁とか睡眠障害が全面にリアルに出ており、その分瞬発力が欠けたかなという気がする。小説はあまり覚えていないが、病気なんて結構どうだってよかったように感じた。で、結局のところ、小説が面白かったから映画も見てみようと思ったわけで、映画単体で見ようというモチベーションとなるものはなにもなかった。見始めるまでは。でも実際小説より劣ると思いながら見てしまったのだが、決してつまらない映画ではなかった。趣里は主演らしく画になる女優で、菅田将暉は余裕の安定感を見せていた。仲里依紗がもうちょっとぶっ飛んでくれると良かったかもしれない。小説での仲里依紗の役はかなりイカれていたと記憶している。ラストへとつながる一連の流れは長すぎたのかもしれないが、恋愛映画としての完成度は小説に引けを取ることなく素晴らしかった。95点。

人生の特等席

ロバート・ロレンツ、2012。見逃していたイーストウッド作品だと思ったのだが、イーストウッドは出演だけで監督はちがう人だった。エイミー・アダムス(これもエマ・ワトソンと勘違いした)が主役としてリードしてくれればお話はわかりやすいのだが、アダムスひとりの部分が弱すぎて結局は父と娘の衝突と和解といったテイストの物語になっている。原題が『Trouble with the Curve』で、この原題がなかったら、カーブの打てない打者のくだりは下手なジョークのように弱々しいものになってしまう。ジャスティン・ティンバーレイクは映画にものすごく安定をもたらしていたと思う。父娘は衝突しまくるのだが、ティンバーレイクも衝突に巻き込まれる。この映画は衝突音や衝撃音が実際に耳に聞こえないものまでふんだんに使われている。でも圧倒的にイーストウッドの出す車の衝撃音が印象に残っていて、他の衝突や衝撃音が薄い。そもそもこの映画はエイミー・アダムス主演でもよかったんじゃないか。エイミー・アダムスのダブル主演でも良かったと思うし、そう仕立てたつもりかもしれないのだが、イーストウッドがのほうが衝突や衝撃度では圧倒する。ラストのキャッチの衝撃からはエイミー・アダムスの面目躍如となるのだが、そこに至る説得力が欠けていた。これがイーストウド名義だったら評価も上がっちゃうのかなあ謎だ。90点。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

庵野秀明、摩砂雪、前田真宏、鶴巻和哉、2012。『序』『破』『Q』と立て続けに見てしまったのだが、この置いてきぼり感にひたり、ああエヴァンゲリオンだと思うに至った。14年間の空白で何から何まで変わりすぎてよくわからない。見慣れた光景がないぶん、なにがどうなってんだかよくわからない部分が多い。さすがに3本連続で見ると飽きる。特に『Q』はお馴染みのメンツがいないから碇シンジの心の旅路みたくなっていて、それはそれでおもしろいのだが、もうちょっとなんとかできたような気がしないでもない。3本目でようやくエヴァンゲリオンらしくハチャメチャにやってくれましたという感じは出ている。まだ続編があるようなので奇跡的な着地点、もしくは奇跡的な暴走を見てみたい。90点。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

庵野秀明、摩砂雪、鶴巻和哉、2009。前作にあたる『序』は、テレビシリーズの延長線上にあるように見えたのだが、この『破』はテレビシリーズをいい意味でも悪い意味でも飛び抜けている。やたらと熱い映画になっているし、特に碇シンジと綾波レイはテレビでは見られなかった部分を恥ずかしげもなく見せる。それが映画の中心となるからまあ面白い。映像の迫力もテレビと比べてはいないけれど、相当なものがあって、その迫力に押されて圧倒されながら全編見てしまった。前作とちがいテレビシリーズを踏襲していない部分が多いから、にわかファンにとっては何がどうなってんだかさっぱりわからなくなってしまうのだが、多分わかる必要もないのだろうなとは思った。娯楽エンタメ路線が炸裂しているのだからそれで十分なのだ。でも、シンジとアスカがユニゾンするやつ、あれは見たかったなあと思った。懸案事項としてはもうひとつ『Q』というのがあってそれが無料期間中に見られればいいのだが、無料期間が終わったら見ないだろうからゴールデンウィーク中になんとか見たいものだ。95点。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

庵野秀明、摩砂雪、鶴巻和哉、2007。なんだかサラリとしたきれいなテレビリメイクになっていて驚いた。映画もシリーズになっていて、この「序」は特にオリジナルに忠実であると想像する。これでは商業的意図が丸見えのリメイクにしかなっていない。これはそもそもどこまで新しい映像でどこまで古い映像なのか、にわかファンにはまったくわからない。この映画にはテレビシリーズ6話までが入っているらしいのだが、テレビだともう少し実験的なことをやっていたような気がする。そういう部分があってのエヴァンゲリオンという気がしていて、要はその慣例からはみ出す感じが魅力なのだ。対してこの映画はかなり普通に作られているような印象を受けた。正統派といえば響きはいいし、わくわく見られるのだがテレビにはあった野蛮さがない。当然それは狙いとしてやっているわけなのだが、そう考えるとこの映画も連作で見ないと評価がよくわからない。しかもラストの作品は未だに公開されずときたものだから、エヴァンゲリオンのファンはよく付き合うなあと感心させられた。とにかく無茶は避けて滑り出したという印象。90点。

Ruffn’ Tuff/ラフン・タフ ~永遠のリディムの創造者たち~

石井“EC”志津男、2006。レゲエのドキュメンタリーというのはかなりあって、そのどれもが素晴らしいのだが、このドキュメンタリーは他より少し弱い気がした。ただ、時期的にレジェンドたちがまだ健在の人も多く、オールスター夢の共演としては楽しめた。構成はグラッドストン・アンダーソンを軸にしてジャマイカン・ミュージックの歴史を追ったものになっている。物足りなかったのは昔の映像がほとんどないところだ。この映画にはスタジオアークで気の狂ったミキシングをするリー・ペリーも出てこないし、オーディションをする強面ジャック・ルビーも出てこない。バイクを盗まれるホースマウスもいないし、銃を構えるジミー・クリフもいない。多くのレジェンドたちのインタビューがあるのだが、まだまだ足りない。時代を追う上でも足りないし、そもそもあまり時代を追うことに執着していないような気がする。現代ジャマイカ音楽との繋がりもあまり感じられず、黄昏のオールド・レゲエ・ミュージックといった印象。この手の映画は、レゲエが好きな人はパブロフの犬状態で楽しめてしまう。たしかにこの映画もパブロフの犬にはなれるのだが、そうではない人にオススメできるかといったら疑問が残る。90点。

万引き家族

是枝裕和、2018。是枝裕和らしからぬ雰囲気を醸し出していたのが、撮影の近藤龍人と女優の松岡茉優だろう。近藤の作る画は、しっかりした構図から大胆にカメラの反転させるパターンなんて『曇天生活』から変わらないし、家の中はもちろん万引のシーンやロケーション撮影など、記憶に残るシーンがたくさんあった。松岡茉優はあの家族においては異質な存在であり、そのことが彼女を引き立たせていたし、樹木希林との関係性はとてもよかった。家族と偽の家族、社会と社会の枠から外れた人々、それを明確に差別化せずにその混濁ぶりがすさまじく練られていて、種明かし的な部分があっても印象が何も変わらなかったからすごいと思った。万引き家族というのは、万引で暮らしている家族の姿でもあるのだが、その万引の概念はかなり拡張されており、子供を万引する物語が大きく提示されるわけだが、その善悪については映画は判断することをしない。いろんな善悪などの価値観が放置され、例えば池脇千鶴と安藤サクラのように噛み合わなかったりするのだが、それを対照させることで社会のフレームの内と外を分けるといった意味合いのことはしない。社会とのあってないような距離、すなわち類似性と、陸の孤島のように浮かぶあの家の社会とのはぐれ具合に見える平行性。飽きずに見ることができた。95点。

巴里の屋根の下

ルネ・クレール、1930。クレールのトーキー初作。見せない演出、聞かせない演出が随所に効果を発揮していて素晴らしい。トーキーなのに台詞をドア越しにして隠したり、音楽が遮ったり、汽車の音が遮る。見せない演出は決闘のシーンが良かった。そしてクレーン撮影で捉えられたバリの裏町の描写も素敵だ。美術のラザール・メールソンは本当にいい仕事をしたと思う。全編娯楽映画という感じで、悪いやつも拳銃も出てくるのだが、一貫してハートフルでユーモアの効いた人情劇になっている。ただ、それがうまくハマったかどうかは多少疑問が残った。演出からは、してやられた感がもっと欲しかったし、映画としても序盤でいいところを見せてしまっていて退屈な時間があった。初トーキーを見事に仕上げたというよりは、今見れば微笑ましく見てしまうくらい拙い部分もある。しかし、冒頭のシーンとか本当に雰囲気がよくて、あああんな世界に住みたいなあと思わされた。90点。

女神の見えざる手

ジョン・マッデン、2016。ちょっと台詞の多い映画で、字幕をほとんど読めなかったのだが、それでもジョン・マッデンが素晴らしい仕事をしているのはわかった。やたらとシックな色合いのなかでの人物の動きが素晴らしく、また絶妙なカッティングも炸裂していてグイグイと映画を引っ張っていく。ジェシカ・チャステインのダークなヒロインっぷりがやはり図抜けており、先手必勝な業界で先手を打ちまくる様は痛快だった。字幕を追い切れなかったから当然キャラクターも追い切れなかった。これは二度見ればキャラクターは立ってくるだろうし、伏線みたいなものも気づくかもしれない。でも二度見る映画でもないような気はする。終盤が素晴らしい。すべてを開示しないところなんてこの映画全体とピッタリあっていった。ラストショットは何かを匂わせるものだったが、匂わせるだけに留めている。そういうすべてを開示しないところがこの映画には散見され、それが映画が並びにジェシカ・チャステインを作り上げていた。90点。